認知症 ここまできた認知症予防

ここまできた認知症予防(3)~AIロボットとの会話で認知機能を活性化する「共想法」

ここまできた認知症予防(3)~AIロボットとの会話で認知機能を活性化する「共想法」
予防・健康
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会話支援の人型AIロボット「ぼのちゃん」

長寿の国では、高齢になるほど認知症の発症を避けることは難しい。しかし、発症や進行を遅らせることは可能であるため予防活動に注目が集まっている。

アルツハイマー病の原因となるアミロイドβは病気が発症する15~20年前から脳内に溜まり始めるため、中高年の世代から予防対策をすれば効果的だとして活動をする研究グループや啓発団体も増えている。

理化学研究所革新知能統合研究センターでは40~50代の女性を対象にした認知症予防の体験会を、社会活動の重点に置いている。その様子はこんな感じだ。

「これは家族で旅行したときの写真です。なぜこの写真を選んだかというと…」と、少年が海に飛び込んでいる写真を前に参加者の1人が説明する。グループには4~5人の参加者がいて各々、提示されたテーマに沿った写真を1枚持ち寄り、全員でそれを見ながら会話を進めていく。

目の前のテーブルには、小型で人型の会話支援のAIロボット「ぼのちゃん」が置かれ、司会進行役を務めている。一通り全員が自分の持参した写真についての説明を終えると、ぼのちゃんの音声が響く。

「〇〇さんの写真について質問をお願いします」

ぼのちゃんに促される形で、参加者たちが口々に質問をする。それに、写真の持ち主が答えていく形だ。

進行にあたりぼのちゃんは、発話量に基づいて話者の交代を支援する。話が長い人の場合には割って入り、発言の少ない人には会話を促す。

ある参加者が写真の説明をしていたところ、突然、「ありがとうございました」と、ぼのちゃんの声に遮られた。

質問が少なく、黙りがちだった参加者には「××さん、いかがですか」と呼びかけ、発言しやすい雰囲気を作っていた。

想いを共にして会話する「共想法」

この会話形式は、想いを共にして会話することから「共想法」という。相手の話をよく聞き、次々に質問をしていく。ぼのちゃんは、共想法の効果を高めるため欠かせない存在として会話を手助けしていた。

共想法とロボットの生みの親である同研究センター認知行動支援技術チームリーダーの大武美保子さんが解説する。

「共想法では、提供された話題で話す、聞く、質問する、答える、という行動の時間と順序を設定しています。質問するという行為は相手の話を理解するために思考と判断が求められるもので、認知機能に良い効果をもたらします。長く話す人やあまり話さない人もいますが、会話による社会的交流を確実にするため、発話量の制御を行える会話支援ロボットを開発しました」

体験会では、骨密度や体組成、糖化度、脳疲労とストレスについての測定もする。セルフチェックすることで体の状態を知り、今後の予防につなげられる。参加者の中には前回の体験会で、体組成のデータを知ったことで「運動の必要性を感じ、ジムに通い始めた」と話す人もいた。

女性は70代になると骨粗鬆症有病率が40~50%と、老化が進み筋肉も減少し、認知機能が衰えがちだ。認知症対策の運動も思うようにできない。

「いざ認知症予防活動をしようとしても、その活動ができる状態にない人が多いのです。そうなる前に、特に女性は40~50代で体が作り替わるので、この年齢から予防対策を始めることが有効なのです」と大武さんは呼びかける。

大武美保子(おおたけ・みほこ)

 

1975年生まれ。理化学研究所革新知能統合研究センター認知行動支援技術チームリーダー。NPO法人ほのぼの研究所代表理事・所長、東京農工大学客員教授。

 

執筆者
医療ジャーナリスト
宇山 公子
静岡県出身。会社員、新聞記者を経てフリーライターに。介護、健康、医療、郷土料理、書評など執筆。日本医学ジャーナリスト協会会員。