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最新の乳がん治療、早期発見・タイプ別治療で「温存」も十分可能

最新の乳がん治療、早期発見・タイプ別治療で「温存」も十分可能
病気・治療
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ネット情報に惑わされないで

国内で年間9万人以上が発症する乳がんは、女性で最もかかりやすいがんといえます。亡くなる方は1万5000人以上。「乳がん」と診断されると、ご本人はもとより家族も大きなショックを受けます。

「乳がんは必ずしも性質が悪いものばかりではありません。およそ1割の方は再発するなど治療が難しいケースもありますが、早期発見・早期治療で、ほとんどの方は元の生活を取り戻すことが可能です」

こう話すのは、東京女子医科大学病院乳腺外科の明石定子教授。乳がん治療を数多く行う一方、新しい診断法や治療法の開発に尽力しています。

「しこりを自覚したときに、根拠のない方法を試して治療の開始が遅れ、乳がんを進行させてしまう人がいまだにいます。ネット上にはたくさんの情報がありますが、『奇跡の治療』『100%治る!』などの言葉に、惑わされないようにしましょう」

たとえば、乳房のしこりに気づいても「がんと診断されるのが怖い」と思う人はいます。中には、乳腺外科で検査を受けるのをためらい、ネット上などで見つけた「手術をしなくても大丈夫」という言葉に心がひかれ、費用を払ってその方法を試す人がいるのです。乳房のしこりがすぐに消えればよいですが状況は変わらず、さらに効果的に見える方法を試し、時間は過ぎていきます。

乳房の変形が進み、体調不良を抱えてようやく乳腺外科へ。最初の段階で受診していれば、治療もスムーズでしたが、すでに骨などほかの臓器に転移も起こしており、治療が困難を極めてしまう。このようなケースがあるといいます。

乳がん治療は急速に進化中

「乳がんの治療はとても進歩しています。タイプ別の治療法で効果が高く、身体への負担も以前と比べれば軽減されています。不確かな情報に惑わされることなく、適切な治療を受けてください」

乳がんは、進行度合いによって手術、放射線治療、薬物療法を組み合わせます。が、乳管にとどまるなど小さくて局所の早期がんの場合は、手術で乳房の一部を切除することで治療が済むこともあります。

また、薬物療法ではタイプ別の薬が進展しています。女性ホルモン(エストロゲン)と関係の深い「ルミナル」というタイプでは、ホルモン剤を5年間内服することで、再発や転移を約半分に減らすことが明らかにされました。また、「HER2(ハーツ)」というタンパク質を持つ乳がんや、細胞分裂マーカー「Ki67」をたくさん持つ乳がんでは、分子標的薬や抗がん剤を組み合わせることで高い効果が出るなど、タイプ別の治療法が確立されています。

「乳がんはがんを取り除く手術だけではなく、薬や放射線を組み合わせる集学的な治療が功を奏します。手術も、部分切除はなるべく目立たない方法や、乳房再建もご自身の組織やシリコンの入った袋を使って行うなど、状態に合わせた方法を選べるようになっています」

明石教授はこれまで3000例以上の手術を行っていますが、6~7割の人は、乳房を部分的に切除する乳房温存手術で済んでいるそうです。

「乳がん検診の診断法も向上しています。異変を感じたら、1人で悩まず乳腺外科にまずご相談ください」

解説
東京女子医科大学病院乳腺外科教授
明石 定子
東京女子医科大学病院乳腺外科教授、同ブレストセンター長。1990年、東京大学医学部医学科卒。東大病院、国立がん研究センター中央病院、昭和大学病院乳腺外科を経て、2022年9月から現職。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。