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コレステロールの新事実(4)~善玉HDL、高ければ良いわけではない

コレステロールの新事実(4)~善玉HDL、高ければ良いわけではない
予防・健康
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HDL低すぎ、高すぎは病気リスク上げる

血栓が生じて心筋梗塞や脳卒中のリスクを上げる動脈硬化は、LDL(悪玉)コレステロールの高値(140㎎/dl以上)と関わる。それに対し、動脈などの余分なコレステロールを回収するHDLは善玉といわれる。

健康診断でHDLコレステロール100㎎/dl以上の高値なら余分なコレステロールを次々に回収し、動脈硬化予防に貢献する――といいたいところだが、実はそうではない。

「HDLコレステロール値が低すぎても、高すぎても、心筋梗塞など病気のリスクを上げます。理想値はおおむね50~90㎎/dl。100㎎/dlを超える場合は機能不全でHDLがコレステロールを回収できなくなっている可能性があるのです」

こう指摘するのは、東京慈恵会医科大学附属柏病院の吉田博病院長。HDLの新たな機能評価法「安定同位体SIを用いた測定法」を発明し、今年1月、特許が認められた。HDLがコレステロールを取り込む能力(引き抜き能)がどの程度あるのか、血液検査で正確に調べることができる。

「たとえば、飲酒習慣でHDLコレステロール値が高い場合は、コレステロールと中性脂肪の交換に関わる酵素の働きが阻害されています。その結果、HDLが余分なコレステロールを回収できなくなるのです。これがHDLの質の低下のひとつです」

HDLは「質」が重要

かつては善玉といわれるHDLのコレステロールが高ければ高いほど、動脈硬化になりにくいと考えられていた。しかし、HDLコレステロールの高値でも心筋梗塞などの病気や死亡のリスクが上がったと報告され、HDLの「質」が問われるようになったのだ。

「私たちが開発した新たな評価法の技術で、さらなる『質』の研究や創薬の研究につながると思っています」

では、HDLの質を上げるにはどうすればよいのか。質を下げる多量飲酒を控えるのはもとより、一般的には運動習慣もHDLコレステロール値を上げるために役立つといわれる。

「運動習慣は、HDLのみならず、中性脂肪を燃焼させて代謝を上げるため、中性脂肪(トリグリセライド)高値の改善につながります。1日7500歩以上(少なくとも4000歩)のウオーキングなどがお勧めです」

やはり、HDLや中性脂肪、LDLの異常値を改善するには運動習慣が欠かせない。ふとスマートフォンの歩数計を見れば1日1500歩…といった人は、相当の努力が求められる。

「サケに含まれる色素・アスタキサンチンや青魚に多く含まれるEPAなどのn―3(オメガ3)系不飽和脂肪酸を多くとっていると、HDLコレステロール値が上昇したと報告されています。実際には魚を毎日食べるわけにはいかないので、必要に応じてサプリメントも活用するとよいと思います」と吉田病院長はアドバイスする。

HDLの“質”の高め方

  • 多量飲酒は控える
  • ウオーキングなどの有酸素運動を習慣化する
  • アスタキサンチンを含むサケやEPAを多くふむ青魚などを副菜として取り入れる
  • LDLコレステロール値や中性脂肪値が高い人は暴飲暴食を控えるなどトータルで
  • 健康診断の基準値以上のLDLと中性脂肪は放置しない
解説
東京慈恵会医科大学附属柏病院病院長
吉田 博
東京慈恵会医科大学附属柏病院病院長、同大学臨床検査医学講座教授、同大学院代謝・栄養内科学教授。医学博士。1987年、防衛医科大学校卒。米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部動脈硬化研究センターなどを経て現職。日本動脈硬化学会理事など数多くの学会役職も兼任。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。