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コレステロールの新事実(3)~悪玉LDLが小型化すると危険度が増す

コレステロールの新事実(3)~悪玉LDLが小型化すると危険度が増す
予防・健康
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中性脂肪が多いとLDLは小型化する

心筋梗塞や脳梗塞は、動脈硬化が進行し血管に血栓という血の塊が詰まるのが原因で起きる。血栓の元凶の一つは、LDL(悪玉)コレステロールをはじめとした血液中の脂質異常といわれている。健康診断結果で、この数値が140㎎/dl以上になっていると、医療機関で治療を勧められるのが一般的だ。160㎎/dl以上だと遺伝的な病気が潜むこともある。

「LDLコレステロール値が高いことに加え、中性脂肪(トリグリセライド)値も高い(150㎎/dl以上=空腹時採血)とよくありません。中性脂肪が多いと、LDLが小型化して動脈硬化を促進させやすいです」

こう話すのは、東京慈恵会医科大学附属柏病院の吉田博病院長。LDLなどのリポ蛋白の評価法を開発する他、LDLが小型化して動脈硬化の要因となる仕組みや、ビタミンE不足が関与していることを突き止めた。

「カギを握っているのは、肝臓で放出されるVLDL(超低比重リポ蛋白)という輸送体です。VLDLは中性脂肪とコレステロールを運んでいるのです。これが増えると、LDLなどにも悪影響を及ぼします」

VLDLは肝臓から血中に送り出される輸送体で、LDLに出合うと、LDLに中性脂肪を渡してコレステロールを受け取るといった物々交換をする。LDLが受け取った中性脂肪は酵素で分解され、LDLが小型化する。

たとえば、袋にいっぱい油の瓶を入れ、その一部をお菓子と物々交換した後、受け取ったお菓子を食べてしまうと袋は小さくなるだろう。LDLも受け取った中性脂肪が分解されることで、小型化するのだ。

小型化したLDLが血栓の原因に

「小型化したLDLは血管壁に侵入しやすく、それが酸化変性し、その刺激で内膜壁が壊れると血栓が生じます。LDLコレステロール値と中性脂肪値がともに高いのは、非常によくないのです」

動脈硬化病巣から余分なコレステロールを回収するHDL(善玉)も、増産されたVLDLに出会うとコレステロールを渡し中性脂肪をもらい受ける。この結果、HDLコレステロールが減少する。

「VLDLが増えすぎると、LDLを小型化し、HDLコレステロールを減らすことで動脈硬化を後押ししてしまうのです」

ただし、健康診断でLDLコレステロール値やHDLコレステロール値、中性脂肪の値が異常を示しても自覚症状はない。そのため、放置している人も少なくないのだ。気づかぬ間に動脈硬化が進行し、心筋梗塞などを発症したときに、初めて血管の状態を知ることになる。

「脂質異常症も生活習慣病のひとつですから、早期段階は食生活の見直しで改善可能です。医師や保健指導士、栄養士に相談して、適切に対処してください」と吉田病院長は注意を喚起する。

動脈硬化の元凶・小型LDLが生まれる仕組み

  1. 中性脂肪とコレステロールを含むVLDLという輸送体が、肝臓から血中に放出される
  2. LDLはVLDLに出合うと、持っているコレステロールをVLDLの中性脂肪と交換する
  3. LDLが持った中性脂肪は分解されて減少し、コレステロールもVLDLと交換して量がやや少なくなって小型化する
  4. 小型化したLDLは血管壁に入り込みやすくなる
  5. 血管内に入った小型のLDLは活性酸素などで酸化されやすく、動脈硬化のプラーク(コブ)の材料となるとともに、血管の内膜壁を壊しやすくする
解説
東京慈恵会医科大学附属柏病院病院長
吉田 博
東京慈恵会医科大学附属柏病院病院長、同大学臨床検査医学講座教授、同大学院代謝・栄養内科学教授。医学博士。1987年、防衛医科大学校卒。米国カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部動脈硬化研究センターなどを経て現職。日本動脈硬化学会理事など数多くの学会役職も兼任。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。