夫婦で同じ食生活でも数値に差が出るのは?
中年期になると生活習慣の影響でLDL(悪玉)コレステロール値が高くなりやすい。LDLコレステロール値が高いと、動脈硬化が進んで心筋梗塞や脳卒中のリスクも上がる。たとえ夫婦で食生活が一緒でも、夫は40代でLDLコレステロール値が異常(140㎎/dl以上)なのに、妻は50代になってから異常値が現れるようなことが起こる。男女差はなにか。
「女性ホルモン(エストロゲン)の働きと関係しています。エストロゲンは、細胞がLDLを取り込む受容体の働きを促します。つまり、細胞がLDLを取り込みやすくなるので、LDLコレステロール値が上がりにくいのです。閉経後にエストロゲンが減少すると、その働きが弱まるため、男性と同じように生活習慣の影響でLDLコレステロール値が高くなります」
こう説明するのは、東京慈恵会医科大学附属柏病院の吉田博病院長。善玉といわれるHDLの新たな機能評価法を発明するなど、脂質異常症や動脈硬化などに対する医療の発展に尽力している。
「エストロゲンは、HDL(善玉)コレステロールを産生する働きも高めています。エストロゲンが失われると、LDLコレステロール値が上がり、HDLコレステロール値が下がり、さらに、代謝が落ちて中性脂肪(トリグリセライド)が上昇することで、脂質異常症と診断されるケースが増えるのです」
甲状腺機能低下症でLDL高い人も
LDLはコレステロールを全身に運ぶ輸送体の役割を担う。コレステロールは細胞膜、ホルモンや胆汁酸などの材料になるため、必要に応じて細胞はLDLを取り込む仕組みがある。女性ホルモンのエストロゲンは、その作用を助けるのだ。加えて、血液中の余分なコレステロールを肝臓へ戻すHDLを作る能力も、エストロゲンが高めるため、閉経前の女性は脂質異常症やさらには動脈硬化の病気になりにくい。
だから、夫婦で同じ食生活をしていても、夫はLDLコレステロール値が高くなるのに、妻は正常値のままということが起こる。もちろん体質も関係するが、エストロゲンの低下がコレステロール値に影響するのは間違いない。
「女性の場合は、甲状腺機能低下症でLDLコレステロール値が高い人をよく診ます。甲状腺はのどぼとけの下に位置し、若い頃は甲状腺機能低下症になると甲状腺の腫れがよく目立つので分かりやすいですが、中年期以降、腫れが目立たず気づきにくいことがあるのです」
甲状腺機能低下症では、全身の新陳代謝に関わる甲状腺ホルモンが低下する。結果として、LDLコレステロール値も上昇しやすい。
「健康診断結果で、LDLコレステロールなどの異常値が出たときには、自覚症状がなくても放置せず、医療機関をきちんと受診しましょう」と吉田病院長は呼びかける。
甲状腺機能低下症とは
身体の新陳代謝に関わるホルモンを分泌する甲状腺の機能が低下する病気。疲労感やむくみ、冷えなど、更年期障害に似た症状を引き起こし、LDLコレステロール値も上がりやすくなる。原因は自己免疫疾患の橋本病によることが多い。