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更年期後の“再燃”不安には「傾聴」が有効

更年期後の“再燃”不安には「傾聴」が有効
エイジングケア
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閉経5年後以降は更年期障害ではない、と言われるが…

顔のほてりや手足の冷え、動悸や息切れ、よく眠れないなど、更年期障害の症状はさまざまです。更年期は、閉経前後の5年間を合わせた約10年間のことで、一般的には45~55歳、すなわち50歳前後と考えられています。

更年期が過ぎるとさまざまな症状は治まるのが一般的です。ところが、60歳を過ぎて再び、冷えのぼせや不眠、めまいなどに見舞われることがあります。閉経から5年以上経っていると、西洋医学的には更年期障害ではないとされます。

「これらの自律神経の乱れは、メンタルの不調にもつながります。西洋医学的な特効薬がないので、諦めて放っておくと症状が悪化し、気分が落ち込むなどメンタル面に悪影響を及ぼします。結果、多彩な症状の悪化を後押ししてしまうのです」

こう説明するのは、千葉大学墨田漢方研究所(東京都墨田区)の森瑛子医師。日本産科婦人科学会認定専門医と日本東洋医学会認定漢方専門医の資格を持ち、再燃した更年期障害のような症状に悩む女性を数多く診察しています。

「本人は症状で苦しんでいるわけですから、まずはお話を聞いてあげることが大切です。ご家族の理解を得られ、生活環境が改善できれば、症状が軽減されることも少なくありません」

「傾聴」と「漢方」で改善も

自律神経は、体温調節や発汗、心臓など臓器の動きなどに関わります。自律神経が乱れると、暖房の部屋でも手足が冷たく感じたり、急に心臓がドキドキして汗をかいたり、手足が痛むようなことも起こります。それが、他人は理解しづらいことがあります。

「なんだか最近、夜眠れない」といわれたときに、「いびきかいて寝てたくせに」や「日中暇なんだから昼寝すれば」と応答するのは禁忌です。

「一般的に男性は、さまざまな症状で悩む女性に対して、すぐに解決策を提示する傾向があります。もちろん、よかれと思ってのことですが、更年期障害や似たような症状に苦しむ女性にとっては、即座に解決策を提示されると、『理解されていない』と思うのです。まずは傾聴を心がけていただきたいと思います」

「昼寝すれば」ではなく、遮らずに話を最後まで聞き、「たいへんだね」と共感することが大切です。傾聴によって少し気持ちが楽になり、症状が軽くなることもあります。

「更年期様症状の再燃は、『あの症状が戻ってきたらどうしよう』という不安が引き金になることもあります。不安が膨らんだ結果、多彩な症状が現れたり、症状が悪化することがあるのです。そのため、症状について一人で考え込み過ぎないことも大切です。気になるときは、早めに相談にいらしてください」

東洋医学は、自律神経の乱れなどによる症状改善を得意としています。必ず漢方医学的な診察を行い、いわゆる『証』に合わせて処方を決定します。病名で処方を決めるのではなく、あくまで個人の体質に合わせて処方を決めるのです。

「『証』の見極めが重要で、多彩な症状が一つの漢方処方で改善することもあり、それが漢方の醍醐味でもあります」と森医師は患者と向き合います。

(写真:千葉大学墨田漢方研究所には処方用の生薬がそろっています)

解説
医師。千葉大学墨田漢方研究所
森 瑛子
千葉大学墨田漢方研究所・千葉大学附属病院和漢診療科勤務。2008年、日本大学医学部卒。2010年、日本医科大学女性診療科産科入局。2017年、北里大学東洋医学総合研究所入所、2023年から現職。日本産科婦人科学会認定専門医、日本東洋医学会認定漢方専門医。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。