ロボット手術とAI進化で高齢者の手術可能に
近年、「がんと診断されてもあきらめない」という言葉がよく使われるようになった。医薬品の進歩は目覚ましく、手術技術も進展中だ。さまざまながんの手術で保険適用になっているロボット支援下手術「ダヴィンチ」は、人間の手技を補って余りある動きをする。
「ロボットアームの動きに加えて、AI(人工知能)の技術の発展で、私が医師になった20年から30年前の技術より、はるかに進歩しています。かつては80歳以上の患者さんの膀胱がんの手術は勧めませんでしたが、今はがんの状態や体調などを総合的に判断して、必要があれば90代の方にも行えます」
こう話すのは、東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科の三木淳診療部長。泌尿器科領域の難しい手術を「ダヴィンチ」で数多く手がけるエキスパートである。
他病院で断られた患者の膀胱がん手術も、技術レベルの高さから実施可能と判断すれば、積極的に挑んできた。
今年8月には、触覚がついた国産の手術支援ロボット「Saroa(サロア)サージカルシステム」による前立腺がん手術を、世界で初めて成功させている。
「『Saroa』はまだこれから発展するシステムです。『ダヴィンチ』とは異なるシステムで、手術に役立つと思います。ロボット支援下手術は、きめ細かな縫合などを行いやすく、合併症が起こりにくくなっています。ご高齢の方で体力があれば、年齢を問わず手術は可能です」
ベテラン医師の技術もさらにレベルアップ
教育にもロボットは役立つという。エキスパートの医師の手技は「ゴッドハンド」とも称され、その技術を若い医師たちは学ぶことになる。だが、手術室の見学実習などで、遠目に見ながら指導を受けても、技術を理解するのはなかなか難しい。その点、「ダヴィンチ」は、画像を保存し再生できるため、それを見ながら指導を受け、繰り返し手技が学べることで、若い医師たちの助けにもなっている。
「エキスパートの私自身、手術のレベルが日々上がっていることは、画像を見ればわかります。『Saroa』によって新たな技術が加わることで、さらに進化することを期待しています」
三木診療部長が望んでいるのは、手術中に映し出される画像に組織の中に埋もれて見分けにくい血管や神経などが色分けされ、AI(人工知能)の技術で最適な切開ルートを瞬時に得られるようなシステム。ロボットに触覚が伴えば、組織に埋もれた血管や神経も、適正な力でつまんで傷つけることを避けやすい。
「高齢者は、過去に手術を受けて腸が癒着しているケースもあります。複雑な手術に対して、私たちは技術レベルを常に上げる努力をしています。新たなロボットはその助けとなり、今までも不可能と考えられる手術を可能としてくれると思います」
技術革新は超高齢社会の医療のサポーターにもなる。その発展に大いに期待したい。
(写真:東京医科歯科大学提供)