ダヴィンチとSaroaの違い
2023年8月、触覚を持つ手術支援ロボット「Saroa(サロア)サージカルシステム」による世界初の前立腺がん手術が成功した。執刀した東京慈恵会医科大学附属柏病院泌尿器科の三木淳診療部長は、泌尿器科領域で開腹、腹腔鏡下手術、ロボット支援下手術「ダヴィンチ」を数多くこなしてきた。特に膀胱がんのような難しい手術も得意としている。そんな三木診療部長に、ロボット手術について話を聞いた。
「前立腺がんの全摘術に対する保険適用が2012年に承認されて以来、『ダヴィンチ』の独壇場が続いていました。近年、新たなロボットが登場しましたが、『ダヴィンチ』と似た技術でした。今回の『Saroa』は、触覚があってアームの本数も異なり、『ダヴィンチ』とは違う使い方ができるのではないかと思っています」
「ダヴィンチ」は、腹部の小さな穴からアームを入れ、医師はサージョンコンソールに座って遠隔操作する。カメラのアームと手術をする3本のアームを医師が動かすことで、前立腺や膀胱のような骨盤の奥深い場所の手術も、行いやすいと三木部長は話す。
「『ダヴィンチ』には触覚がありません。が、開腹手術で実際に臓器を触った経験を数多く持っていると、疑似感覚で臓器の感触はわかります」
熟練した医師は、触覚がなくても「ダヴィンチ」を巧みに動かし、難しい手術を行うことが可能だ。実際、三木診療部長は、膀胱がんで膀胱を摘出した後、尿路変更をして腸で膀胱の代わりになる袋を作る「回腸新膀胱」のロボット支援下手術を得意としている。
ダヴィンチより少ない2本アームが普及のカギ
「『Saroa』は、触覚が感じられ、その強弱やオン・オフもあって便利です。ただし、カメラ以外は2本のアームしかありません。『ダヴィンチ』は3本のアームで使いやすいのに、なぜ2本のアームにしたのか。それは、将来を見据えていると感じています」
「Saroa」は、アームが少ない分、コンパクト設計でコストも「ダヴィンチ」よりも安くなる。それは、今後、ロボット手術が発展するために重要な意味を持つという。
「ロボット手術でもこうした使い分けが必要だと思うのです。がん以外の良性の手術でも、『Saroa』は使いやすくなるのではないかと期待しています」
コンパクト設計のロボットを使用すると、アーム同士がぶつかるような事態を防ぎやすく、助手も手術中に動きやすくなるメリットもある。
「新しい機能を持った『Saroa』は、さまざまな意味で一石を投じたと思います。今後、さらに発展していくでしょう」と三木診療部長は話す。
(写真:東京医科歯科大学提供)