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更年期障害の「未病」に東洋医学=漢方を活用

更年期障害の「未病」に東洋医学=漢方を活用
エイジングケア
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更年期世代の「未病」は西洋医学の対象外

更年期世代は、仕事の重責や子供の進学・独立、親の介護など、さまざまなストレスを抱えています。厚労省の2022年「労働安全衛生調査」によれば、仕事や職場において「強い不安、悩み、ストレスを感じる事柄がある」割合は、40代で約87%、50代で約85%でした。更年期のホルモンのアンバランスに加えて過度なストレスがかかるため、体調不良につながりやすいのです。

「更年期の症状は、顔がほてって急に汗が流れるようなホットフラッシュ以外に、疲れやすい、頭痛・めまい・動悸など、人によって症状はさまざまです。そのつらさを周囲の方に理解してもらえないことも、症状をひどくする一因になっています」

こう話すのは、千葉大学墨田漢方研究所(東京都墨田区)森瑛子医師=写真。日本産科婦人科学会認定専門医と日本東洋医学会認定漢方専門医の資格を持ち、更年期症状で苦しむ女性を数多く診ています。

「体温調節が難しい、あるいは、眠れないといった自律神経に関わる症状は、西洋医学のホルモン補充療法が必ずしも適応になるわけではありません。それが患者さんの不安を大きくしてしまうことがあるのです」

たとえば、風邪をひいて熱が出たときには解熱鎮痛剤が処方されます。ですが、体温調節が乱れた冷え症や疲れやすいなどの、病気ではない「未病」は本来、西洋医学の対象ではありません。近年、医療機関でも漢方薬を処方していますが、体質に合う漢方薬でないと効果が得られにくく、中には「症状がよくならない」と不安をつのらせる人がいます。

東洋医学は未病、症状を治すのが得意

「東洋医学は未病を治すことを得意としています。冷えに対する『当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)』や『真武湯(しんぶとう)』といった漢方薬だけでなく、鍼灸治療や足指のマッサージ、あるいは、身体を冷やさない工夫などの生活指導によっても症状の軽減につながります」

未病は病院では治らないと感じる人が多いのか、更年期障害の症状を自覚しても医療機関を受診する人は少ない傾向にあります。厚労省の2022年「更年期症状・障害に関する意識調査」によれば、更年期障害の可能性があると考えている人の割合は、40代で約28%、50代で約38%。ところが、「更年期障害と診断されたことがある/診断されている」割合は、40代で約4%、50代約9%でした。多くの人が更年期症状を自覚しても医療機関を受診していないのです。

「ひどい肩こりが更年期障害によることもあります。漢方では、『気(き)・血(けつ)・水(すい)』の巡りをよくすることで、未病を改善・予防することを目的とします」

東洋医学の「気」は簡単にいえば生命エネルギー、「血」は血液などの全身の栄養源、「水」は血液以外の体液のことです。「気・血・水」がバランスよく循環しているのが健康の証し。更年期でホルモンバランスが崩れて自律神経の働きなどが乱れると、「気・血・水」の流れも滞る、あるいは、不足するなどして、さまざまな体調不良につながります。「東洋医学を上手に活用してください」と森医師は呼びかけています。

解説
医師。千葉大学墨田漢方研究所
森 瑛子
千葉大学墨田漢方研究所・千葉大学附属病院和漢診療科勤務。2008年、日本大学医学部卒。2010年、日本医科大学女性診療科産科入局。2017年、北里大学東洋医学総合研究所入所、2023年から現職。日本産科婦人科学会認定専門医、日本東洋医学会認定漢方専門医。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。