ストレス 漢方

収まらない「怒り」を鎮める漢方薬はこれ

収まらない「怒り」を鎮める漢方薬はこれ
エイジングケア
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ストレス続くと七情の「怒」が上昇

ストレスが心身に悪影響を及ぼすのはご存じの通りです。強いストレスを感じることは日常生活にあふれています。日々のストレスをその日のうちに発散できればよいのですが、対人関係のストレスから逃れるのは難しいことがあります。

「逃れられないストレスが続くと、東洋医学の『七情(しちじょう)』の『怒(いかり)』が上昇し、生命エネルギーの“気”が乱れます。しかし、怒りを鎮める方法がないため、多くの場合は症状が悪化しやすいのです」

こう指摘するのは、千葉大学墨田漢方研究所(東京都墨田区)所長の勝野達郎医師。東洋医学に精通し、日々の診療はもとより東洋医学の発展にも尽力しています。

「東洋医学では、『怒ればすなわち気上る』といいます。怒りすぎると感情エネルギーが頭に上り、頭痛、不眠、血圧上昇などにより体調を崩しやすいのです」

仕事や日常生活では、他人から理不尽な態度を取られてカッとすることがあります。怒りを引きずりながら布団に入って、怒ったときの原因などがさらに思い出され、眠れない経験をお持ちの方もいるでしょう。

“気”を鎮める「抑肝散」

「家族や友人に話をして、怒りを吐き出せば、気持ちが落ちつきやすいでしょう。しかし、家族に対する怒りなど、怒りを吐き出しづらいことがあります」

たとえば、同居している義母との仲がよくないとき。義母とは考え方が全く異なり、自分の考えを封じ込めた状態が続くとしましょう。何十年も我慢し続けたある日、胸の奥から悔しいような腹立たしいような思いが強く生じるようになり、我慢できなくなることがあるでしょう。夜も眠れず、頭痛がひどくなるなど、体調がどんどん悪くなっていきます。

「怒りの対象から逃れることができない場合は、漢方薬が役立ちます。東洋医学では、立ち暴れる“気”を鎮めるひとつの方法として、『抑肝散(よくかんさん)』を処方します」

「抑肝散」は、柴胡(さいこ)や釣藤鈎(ちょうとうこう)など7つの生薬からなる漢方薬。釣藤鈎はカギカズラという植物で、釣り針のようなカギ型のとげが茎についており、立ち上る“気”に引っかけて鎮めようと先人が発想したのかもしれません。

「抑肝散を処方すると、人にもよりますが、数日後には気持ちが楽になりその後不眠も徐々に解消し、本来のご自身の状態を取り戻すことが可能です。仮に怒りの対象となっている人と、毎日接しなければならない環境でも、気持ちの切り替えをしやすいのです」

一方、抑うつ傾向が強い人や、悲しい気持ちの人は「帰脾湯(きひとう)」という漢方が向いているといいます。将来への不安や感染症の恐怖など不安が強い人は「半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)」の漢方薬が向いています。ただし、抑うつ症状や不安症状がたいへん強い人は、メンタルクリニックや精神科への受診が必要になることがあります。

「その人の体質や状態に合わせて漢方薬は変えることで、オーダーメードの医療が実現できます。1人で悩まないようにしましょう」と勝野医師はアドバイスします。

解説
千葉大学墨田漢方研究所所長
勝野 達郎
千葉大学墨田漢方研究所所長。医師、医学博士。1990年、千葉大学医学部卒。2014年、千葉大学柏の葉診療所長、2015年、千葉大学医学部附属病院准教授、2023年、同附属病院東洋医学センター長、同年1月から現職。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。