ロボット手術に“触覚”は重要
今年7月、触覚が感じられる手術支援ロボット「Saroa(サロア)サージカルシステム」による世界初の大腸がん(S状結腸がん)手術が成功した。従来のロボット支援下手術「ダヴィンチ」にはなかった触覚が、「Saroa」にあることで、将来的によりよい手術の後押しをすると期待されている。
「私たち外科医は、患者さんの体や組織と対話し、適切な力を使うことが求められています。つまんだり引っ張ったりするときなどに、触覚は重要な意味を持ちます」
こう話すのは、東京医科歯科大学病院大腸・肛門外科の絹笠祐介教授。「手術後の合併症率ゼロ・再発率ゼロ」を目指し、手術の技術レベルの高さで世界的に名を馳せる。「ダヴィンチ」に出合ったのは2009年のこと。大腸がんでは、肛門に近い直腸がんが18年4月、結腸がんが22年4月から保険収載され、絹笠教授は1000例以上の「ダヴィンチ」による大腸がん手術を行う。そして、今年7月の「Saroa」による大腸がん手術を執刀した。
「臓器や組織と“対話”できないと組織をちぎってしまう。ダヴィンチによるロボット支援下手術に限らず、腹部を切開する開腹手術でも、細長い医療機器を用いる腹腔鏡下手術でも起こります。それは避けなければなりません」
若い医師の技術レベル向上に
「ダヴィンチ」は日本に導入されて10年以上が経ち、その機能はかなり高度なものに発展し、技術を有する医師にとってはより使いやすくなった。神経や血管、組織が複雑に入り組むような場所の手術でも、医療機器の可動域は人間の手をはるかに超え、難易度の高い手術もスムーズに行いやすいという。
一方、技術力に乏しい術者の場合は、「ダヴィンチ」には触覚がないゆえに、強い力でつまんだり、引っ張ったりすることで組織がちぎれるようなことも起こる。それを修復するために手間と時間が加算され、患者の身体への負担も重くなってしまう。
「ロボット支援下手術は、丁寧な手術をサポートしますが、雑な手術はより雑にするのです。Saroaで触覚が得られるようになるといっても、日頃からのトレーニングが重要です」
絹笠教授がセンター長を兼務する同病院の低侵襲医療センターでは、革新的な低侵襲手術の開発と洗練、安全・安心な手術提供のための教育や改良などを行っている。その一環として「院内技術認定制度」や「ロボット支援下手術院内術者認定制度」などを導入。トレーニングを積んで一定以上の技術が認められないと、手術を執刀できない仕組みになっている。
「研鑽することで、若い医師の技術レベルは向上し、私自身の技術もさらに上がっています。その道具のひとつとして、Saroaは役立つと思っています」と絹笠教授は話す。
(写真:東京医科歯科大学提供)
手術支援ロボット「Saroa」とは
東京工業大学と東京医科歯科大学の研究成果の実用を目指した2014年創業のリバーフィールド社による手術支援ロボット。患部の小さな穴からロボットアームを挿入、遠隔操作で手術を行う医師の手に触覚が伝わる仕組みを持つ。2023年5月に製造販売承認を取得、同年7月、世界初の大腸がん手術が日本で行われた。