老化・介護 コラム

「親がどんな暮らしをしたいか」で考える高齢者施設の選び方

「親がどんな暮らしをしたいか」で考える高齢者施設の選び方
コラム・体験記
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50歳前後の女性の多くは子育てが一段落してほっとしたのもつかの間、次は親の介護という問題がやってくる。解決しなければならない問題はたくさんあるが、近年、特に関心が高まっているのが「高齢者施設」の問題だ。入居する本人はもちろんだが、その家族も必要な知識を身につけておきたい。

高齢者施設とは?

ひと口に「高齢者施設」といっても、実にさまざまな種類がある。大きく分けると、自治体や社会福祉法人などが運営する「公共タイプ」と、主に民間企業が運営する「民間タイプ」の2種類。ここからさらに、自立者向け、要介護者向けに分けられるが、施設によって入居条件やサービスも異なる。入居を初めて検討する際は、情報収集や集めた情報を理解するのがなかなか難しい。

「分類はもっとシンプルでいいんです。元気な人は、ゆったり派なのか、気ままなほうがいいのか。介護が必要な人は、安心・快適か、リーズナブルにするのか。私どもの所に来た人には、まずこの質問をします」

こう話すのは、(一社)有料老人ホーム入居支援センターの上岡榮信理事長。上岡氏の分類方法は一般的なものとは少し違い、「自分がどんな暮らしをしたいか」に着目した分け方となっている。

入居を考える目安

「現在、65歳以上の人口は約3627万人で、そのうち600万人が介護保険を使っています。さらに、その中の400万人が自宅に住み続けながら介護保険サービスを利用し、残りの200万人が施設などに入っています」(上岡氏)

要介護認定率は年齢が上がるにつれて上昇。特に85歳以上で急上昇し、60%を超えるという。この状況になると思い通りにならないことも増え、自宅で今まで通りの生活を送ることが難しくなる。

最近は独居高齢者も増加の一途だ。自宅での一人暮らしが不安になった場合、高齢者施設への入居を検討するタイミングはどんな時なのか。

「介護認定を受けてから施設入居を考えて探す人が圧倒的に多いですが、歩幅が狭くなった、歩く速さが遅くなり横断歩道を渡れなくなったとか、介護のことで家族がもめ始めたときがプロにお願いするタイミングになると思います」

体力が衰えてくると歩幅は徐々に狭くなり、スピードも遅くなる。ベッドや布団からトイレまでの移動に困難に感じ始めたときも入居を考える目安だと上岡氏は指摘する。

施設選びのポイント

これまで国内外合わせ4000近い高齢者施設を見て回ったという上岡氏に、施設を選ぶ際のポイントを聞くと、①経営理念②スタッフの人数③食事の内容—の3点を特に重視すべきだと教えてくれた。

最も重要なのは経営トップの「4つの観(感)」。心に響く理念をトップが持っていれば、現場スタッフの意識も高くなり、それがサービスの質にも表れるのだという。

また、スタッフの総数が入居者数の8割以上の所は優良施設が多く、食事を自前で調理する施設もポイントは高いという。判断基準は「人とサービス」。建物の外観や設備などにとらわれ過ぎないことが大切だ。

もちろん、費用のこともあるので、悩ましい選択を迫られる場面もあるが、まずは入居者の性格・趣味・望みなどを把握したうえで、それに合った施設を選び、実際に見学・体感して、より良心的な所を選んでほしいと上岡氏は強調する。

近年は、サービス付き高齢者向け住宅の運営に参入する大手建設会社や大手デベロッパーも増えている。入居者やその家族は宣伝に踊らされることなく、真のニーズに合った施設を選んでほしい。

上岡榮信(うえおか・しげのぶ)


1949年生まれ。2010年、有料老人ホーム入居支援センター(http://www.tsuino-sumika.jp/)を設立。入居者の視点に立ち、優良な高齢者施設を紹介しサポートしている。著書に『老人ホーム探し50の法則』(日経BP社)、『安心・快適 高齢者施設ガイド2022』(日本経済新聞社)など。

執筆者
「健活手帖」 編集部