
「死ぬときぐらい好きにさせてよ」。これは、全身にがんがあることを公表したあとも次々と映画に出演して、75歳で亡くなった女優、樹木希林が語った言葉だという。自分らしく幸せな最期を迎えるにはどうすればいいのか。その問いに答える形で出版されたのが、『在宅医が伝えたい「幸せな最期」を過ごすために大切な21のこと』(講談社+α新書刊、990円)だ。著者は、在宅緩和ケア充実診療所「向日葵クリニック」で訪問診療を行う在宅医で、医療法人社団澄乃会理事長の中村明澄さん=写真=である。
患者も家族も納得のいく最期を
刊行の思いを担当編集の田中浩史氏が語る。
「本書は、在宅医として1000人以上を看取ってきた中村さんが、さまざまな人の最期を目にするなかで見えてきた、患者さんも周囲の人も納得がいく最期を迎えるために知っておいたほうがいいことを、21の項目でまとめています。もっとも大切な人生の最期を、大切な人と良い時間にできるかどうか、そのためのヒントとして活用できる1冊です」
昨今、医療においても自己決定が重要視されるようになり、「医師に従う時代」から「ともに考える時代」へと移行しつつある。人生の最終段階であればなおのこと。本人にとって「治療における最善策」が必ずしもその後の「幸福な人生」につながらないこともある。納得いく選択を行えるかが重要になる。
幸せな最期を迎えるための3つの条件
本書では「幸せな最期を迎えるための3つの条件」をこう示す。
- 過ごす場所…自宅、施設、病院からの選択とその可能性があること。
- やってもらいたいこと…受けたい医療や介護を考えることで過ごしたい場所が変わることも。
- やりたいこと(夢)…やりたいことを先送りにすると、症状が進んだとき、チャンスを逃してしまう恐れがある。時期の見極めが肝心。
さらに、物事をポジティブに捉えられる力である「幸せ感じ力」も大切で、その力が高いのは、例えばこんな人だという。
食が細くなってきた際、「これしか食べられない」ではなく「一口食べられた」と考える人
がん末期と知った際、「がんなんてツラすぎる」のではなく「余命を知ったおかげで、死ぬ準備ができてよかった」と考える人
死は誰にとってもつらく悲しい。しかし、現実が変わらないのなら、自分が楽に感じられる捉え方ができたほうが良い。プラスの受け取り方を探ることで、限られた時間の充実度が変わってくるかもしれない。
ほかに「自宅・病院・施設、それぞれのメリット」「おひとりさまの在宅医療」など、幸せな最期のためのヒントがさまざま紹介されている。
「死」に対して漠然とした不安を感じている人も、一読することで今後の人生がもっと充実するアイデアが得られるだろう。
「もしも」をより現実的にする4つの観点
- 人…いざというとき誰がどれだけ動けるのか
- 物…過ごすのに適した場所や困った時に相談できる場所があるかどうか
- お金…使ってよいお金が誰にどのくらいあるか
- 夢…どう過ごしたいか
※今ある選択肢を知るために、人・物・お金の3点については、元気なうちから整理しておこう(詳しくは本書を参照)