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画期的新薬「レカネマブ」で認知症は治るのか(5)~認知症より怖い「老人性うつ」との見分け方

画期的新薬「レカネマブ」で認知症は治るのか(5)~認知症より怖い「老人性うつ」との見分け方
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老人性うつとの取り違えに懸念

新薬「レカネマブ」=写真=が承認され、早くて12月から処方が可能になったことで懸念されることがあります。「認知症」の初期と症状が似ている「老人性うつ」を取り違えてしまうことです。

高齢社会になり、認知症も増えていますが、老人性うつも増えています。これは、うつ病全般に言えることですが、かかっていると気がつかず、未治療のまま過ごしている方が多いのです。家族や周囲が気づいても、認知症だと思ってしまうケースもあります。

たとえば、70歳を過ぎ家でボーッとしていることが多い、口も聞かなくなったので認知症ではと、奥さんに連れてこられた方がいました。聞くと「昔、仕事で悪さをしたことが頭から離れない」「外に出ると警察につかまる」と言うのです。典型的な「罪責妄想」で、うつ病の症状の一つです。老人性うつも「もの覚えが悪くなった」「もの忘れが増えた」などの記憶障害があるので、認知症と間違えてしまうのです。

認知症と老人性うつ、5つの見分け方

私は5つのポイントで両者を判別します。

(1)発生時期と進行速度


認知症では、記憶障害は徐々に進みます。いつ始まったのかはっきりしません。これに対して老人性うつの場合は、比較的短い期間に記憶障害をはじめ、さまざまな症状(不眠、食欲低下、めまい、体調不良など)が発生します。統計的には男性より女性のほうが発症率が高く、要因としては「配偶者との死別・離婚」「子どもの独立や離婚」「本人や配偶者、身近な人間の大病」「リタイアなど社会的役割の低下」「家庭内トラブル」などが挙げられます。

(2)自責の念の有無


この違いはかなり大きく、うつ病の高齢者は、「自分のせいで、家族や周囲に迷惑をかけている」という自責の念が強く、ときには「死にたい」と訴える人もいます。これに対し、認知症患者には、ほとんど自責の念はなく、自死願望もありません。

(3)本人の自覚の有無


認知症の場合、急に怒ったり、徘徊(はいかい)したりと、問題行動を起こしますが、認知機能の低下にしたがって、自分の症状に無関心になっていきます。物忘れを指摘されても、それを否定するようになります。
 しかし、老人性うつでは自分の問題行動を自覚できるため、自分の症状が悪化していないかどうか常に気にします。

(4)物忘れの違い


どちらにも物忘れは見られますが、認知症の場合、晩ごはんを食べたこと自体を忘れてしまいます。対して、老人性うつは、なにかのきっかけで、ある出来事を突然思い出せなくなります。

(5)妄想の違い


どちらも妄想(思い込み)を抱きますが、その「型」が違います。老人性うつの場合は、「心気妄想」(軽い病気でも自分は不治の病にかかってしまった)、「罪責妄想」(罪を犯した、警察に捕まる)、「貧困妄想」(お金がない、破産した)の3パターン。認知症の場合は、「侵入妄想」(家の中に誰かが入ってきた)、「物盗られ妄想」(物を盗まれている)の2パターンが、大きな特徴です。

老人性うつが認知症より怖いのは、自死願望で、ほうっておくと本当に自殺してしまうことです。ただし、老人性うつは治療法次第で治せます。興奮しがちなら向精神病薬、睡眠障害があれば睡眠薬、症状全般に対してSSRIなどの抗うつ剤を処方。2週間で快方に向かう方もいれば、1年以上かかることもあります。新薬レカネマブの登場で認知症も薬で治せる可能性が見えてきました。

解説・執筆者
明陵クリニック院長
吉竹 弘行
1995年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)卒業後、浜松医科大学精神科などを経て、明陵クリニック院長(神奈川県大和市)。著書に『「うつ」と平常の境目』(青春新書)。