化粧品には「全製品表示」が義務づけ
最近、日本の男性でも若者を中心に化粧品を使用する文化が広がりつつあります。さらに実際に診療をしていると、中高年の男性の間でも徐々に興味をもっている人が増えています。
このように化粧品はさらに一般的になりつつあります。そこで一度、化粧品を手にとって成分表示を見てください。化粧品のラベルには薬機法で「全成分表示」が義務付けられているので、何が入っているかは一目瞭然です。ただし、食品と比べて原材料が難解で、成分の良し悪しの判断が非常に難しいです。それは日頃から美容を専門とする私にとっても同じことです。
美容の世界では、シミ・シワ・たるみなどを改善するのに「〇〇式美容術」といった書籍が山ほど書店に並んでいます。私は明日すぐに肌がきれいになる市販の化粧品はないと思っています。なぜなら、皮膚が入れ替わるのは少なくとも1カ月はかかるからです。
そのため、「角質層までしか浸透しない」とうたっているにも関わらず、数日~1週間程度で肌に変化が生じる化粧品は、むしろ合成界面活性剤などによる浸透力が強く、肌への負担が大きいように思います。私は、本紙を読んでくださっている皆さまの5年後、10年後、20年後の肌を考えたケア方法を伝えているつもりです。
医療の世界では、新しく治療や手術を計画する際に、必ず患者さまにその治療の合併症や副作用を説明します。化粧品の使用も同じように、そのリスクを知ることは非常に重要なステップですし、中高年の男性は化粧品の知識が乏しいので尚更です。2012年にはカネボウ化粧品による白斑被害がおきました。これは「ロドデノール」という美白成分により、使用者の肌がまだらに白くなる白斑様症状が起きた事件です。化粧品の原料によっては皮膚の細胞にダメージを及ぼすことがあり、現化粧品メーカーもそれを認めています。
江戸時代のおしろいは神経毒の鉛入り
日本の江戸時代、白粉(おしろい)の炭酸鉛は光を通さず、粉末のままで肌になじんでよく伸びるため、遊女、花魁、歌舞伎役者などに愛用されていました。しかし鉛には神経毒があり、けいれんを起こす、怒りっぽくなる、生殖能力が落ちるなどさまざまな症状が現れたとされています。
日本では明治の初めに鉛入りの白粉が禁止されましたが、歌舞伎役者の中には「鉛入りでないと伸びが悪い」といって使用を続けた者もおり、当時有名だった中村福助(成駒屋の4代目)もその1人で、舞台の最中にけいれんを起こして倒れてしまったといいます。なお現在の白粉の多くは酸化チタンや酸化亜鉛が用いられています。
私は目的を持って、正しく化粧品を使用することは効果的だと思います。ただし、よく成分を理解せず、流行や著名人に影響されて盲目的に使用するのは避けたほうがいいと思います。
実際、化粧品による皮膚炎で来院された若い男性に、すべてハングル語の化粧品パッケージを見せてもらいましたが、もちろんその場で解読はできませんでした。
化粧品の使い方のポイント
- 化粧品にも皮膚炎や白斑などの皮膚障害が生じる可能性がある
- 明日すぐに綺麗になる化粧品ではなく、数カ月続けて、肌の変化を感じられるような化粧品を選ぶ
- 流行や著名人の影響を鵜呑みにしない