認知症発症の4段階
認知症治療の新薬「レカネマブ」(商品名レケンビ)=写真=の登場で注目されるのが、認知症の早期発見です。この薬が効果を発揮するのは、アルツハイマー型認知症の前兆期(MCI)と初期であり、原因物質とされる脳内の「アミロイドベータ(Aβ)」を除去する作用があるからです。
認知症には、次の4段階があります。
前兆期(軽度認知障害、MCI)=「健常と認知症の中間」にあたるグレーゾーン。もの忘れなどが見られる。
初期(軽度)=直前の出来事を忘れてしまったり、勘違いをくり返したりする。単なる「もの忘れ」ではなく、見当識障害も見られるようになる。症状が進むと日付や曜日もわからなくなる。
中期(中度)=記憶障害が深刻化。記憶が保てなくなるため、自立した生活が困難になる。典型的なのは、食事をしたこと自体を忘れてしまうこと。徘徊(はいかい)につながることもある。
末期(重度)—認識力が著しく低下し、人を認識できなかったり、言葉が理解できなくなったりする。もはや、コミュニケーションは不可能。失禁や異食、不潔行為なども見られ、介護なしでは生活が困難に。
いったん認知症を発症すると、もう元には戻りません。4段階を経て、確実に重症化します。高齢者の5人に1人が認知症といういまの時代、誰もが年をとるにつれて不安を募らせています。
生活習慣病と孤独、不健康な食事を避ける
「ボケない」ために何をしたらいいのでしょうか。残念ながら確実な方法はありません。認知症対策として、「脳トレ」「指トレ」「散歩」「運動」「囲碁・将棋」「料理」「交流」などが言われ、高齢者施設では、これを実践しています。しかし、これらは症状が進んだ中期以降には、乱暴な言い方ですが、もはや効果はそれほどなく、正直言って手遅れです。
よく「うちの家系に認知症になった人はいない。だから大丈夫」という人がいます。反対に、「うちは父母とも…だから自分も心配」という人間もいます。現在のところ、認知症が遺伝的なものだとする医学的な根拠はありません。一部、例外的な遺伝が報告されていますが、「認知症の家系」などというものはありません。
結局、研究で確認されているのは、糖尿病や高脂血症などの生活習慣病になると認知症になるリスクが高まるということ。糖尿病患者におけるアルツハイマー型認知症病の発症リスクは、健常者の2.1倍です。
認知症に限らず、どんな病気も予防で大切なのは2つ。1つは、社会、共同体、友人、家族とのつながりのなかで暮らすこと。もう1つは、いい食事をすることです。
米マサチューセッツ総合病院で、76年間742人のアメリカ人の人生を追跡した調査研究があります。その結論は、「家族や友人、共同体と結ばれた人々は、そうでない人々よりもより幸福、健康、長寿である。孤独は命を縮める」というものです。
また、英医学誌ランセットに載った大規模な研究論文では、食事が死者をどの程度増やす原因になったかが推計されています。2017年に「不健康な食事」の影響で亡くなった人は、全世界で約1100万人に上りました。研究チームは、1990年から17年まで350種類以上の病気やけがを分析。日本人のデータも含まれます。
「Aβ」は10~25年かけて蓄積されます。早くから健康生活を心がけるほかありません。