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「年のせい」ではない、腕の痛みに隠れた脳の病気

「年のせい」ではない、腕の痛みに隠れた脳の病気
病気・治療
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腕が使いにくい…パーキンソン病かも

スマートフォンやパソコンの使用時間が長くなると、姿勢の悪さから首や肩、腰などにダメージがあると一般的にいわれています。背骨の中には神経が通っているため、首や肩、腰の痛みに伴い、腕や脚にも症状が出る場合もあります。

たとえば、腕がしびれて痛みもあって、食事や衣類の着替えといった日常的な動作でも「ちょっとつらい」と感じる患者さんのケースを考えてみましょう。

整形外科を受診するほどひどくはないけれど、腕が使いにくいと感じる状態。通院している内科の主治医に相談すると、「お年のせいでしょう」といわれました。安心したものの、しばらくすると痛みがまた強くなり、しびれや手の震えもひどくなってしまいました。——こうした症状を伴う脳の病気としては、パーキンソン病があります。

「パーキンソン病は、脳の神経伝達物質・ドパミンが不足することで運動障害が起こります。筋肉が硬くなって縮み、骨にも悪影響をもたらすのです。また、ドパミン不足によっても痛みを感じやすくなります」

こう話すのは、順天堂大学医学部附属順天堂医院の波田野琢先任准教授。パーキンソン病などの病的な原因タンパク質を血液検査で検出することに世界で初めて成功。難病指定のパーキンソン病の患者を救うべく尽力しています。


「パーキンソン病には特有の運動障害がありますが、『年のせい』と思われがちです。進行して腰痛がひどくなって医療機関を受診し、パーキンソン病と診断されることも珍しくはありません」

パーキンソン病の兆候と症状とは

パーキンソン病特有の運動障害はこうです。

  1. 静止時の手足の震え=早期段階では左右どちらか一方に起こる。
  2. 動きが遅くなり、歩幅が狭くなり、書く文字も小さい。
  3. 筋肉が硬くこわばって動かすことが難しい=歩き始めの一歩が出にくい「すくみ足」も特徴。
  4. まっすぐに立つ、正しい姿勢で座り続けることが難しくなるなど、身体のバランスが悪い。

「身体のバランスが悪いと体が傾き、背骨がズレることになります。整形外科の画像診断で脊柱管狭窄症と診断されることは、よくあります。しかし、消炎鎮痛剤を服用しても、神経ブロック注射で痛みを取ろうとしてもよくならない。パーキンソン病を治療することが重要になるのです」

パーキンソン病は難病指定されていますが、適切な治療を受けることで約6割の人は日常生活を過ごせるようになるといいます。約4割の人は徐々に悪くなったり、急に悪化したりすることがあるそうです。

「早期段階のパーキンソン病の症状は、『年のせい』と勘違いされがちです。静止時の震えだけでなく、痛みやしびれも、パーキンソン病のサインのことがあります。また、運動障害以外の症状にも注意しましょう」

パーキンソン病の人は便秘、嗅覚障害、睡眠障害、気分の落ち込みといった症状も現れやすくなります。いずれも加齢によって起こりやすい症状と重なります。「年のせい」と思っている症状に、思わぬ病気が潜む可能性があることを覚えておきましょう。

解説
順天堂大学医学部脳神経内科先任准教授
波田野 琢
順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科先任准教授。医学博士。1999年、順天堂大学医学部卒。順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科准教授を経て現職。パーキンソン病の臨床と研究を数多く手がけ、新たな研究成果の臨床応用に尽力中。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。