軽度にしか効果が認められない
2025年には約730万人、高齢者の5人に1人が認知症になります。ここに登場したのが、8月に承認された「レカネマブ」(商品名レケンビ)=写真=です。従来の薬は、症状を一時的に「柔らげる」効果があるだけで、進行を「抑制する」ことはできませんでした。それが、米製薬大手バイオジェンと共同で開発したエーザイによると「症状の悪化を2年から3年ほど遅らせる可能性がある」といい、これは画期的なことです。早ければ12月から処方が可能になりますが、誰もが処方を受けられるわけではありません。次の5つの壁があります。
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第1の壁は、認知症といってもアルツハイマー型だけに限定されること。第2の壁は、認知症の初期患者と「MCI」と呼ばれる、認知症に至らない「軽度認知障害」(前兆期)にしか効果が認められていないことです。MCIは厚労省の過去の推定では400万人とされていますが、現在ではその倍はいると考えられます。この方たちがレカネマブの投与を受ければ、発症を遅らすことが可能になるわけです。
ただし、米国立衛生研究所などの研究を元にした米メディアの報道によると、レカネマブと米国で条件付きで承認されたアデュカヌマブ(米国の商品名アデュヘルム、日本未承認)の治験から、投与対象になるのは初期患者の8~17%に過ぎないとされます。また、MCIから認知症への年間移行率は10%程度(5年で約50%)とされます。
検査、施設、費用も万人向けではなく
第3の壁は、処方を受けるためには、認知症を判定する画像検査の一つ、「アミロイドベータ(Aβ)」の「PET検査」が必須なこと。レカネマブは、アルツハイマー型認知症の原因とされる、脳内に蓄積された「Aβ」を除去する薬だからです。「Aβ」は発症の10~25年前から脳内に蓄積されるので、これを確認しなければなりません。かつては「Aβ」を確認することは困難でしたが、医療技術の進歩で可能になりました。
ただし、この検査は保険の適用外で高額のため、日本では普及していません。現在、全国で約60施設しかなく、検査時間は約4時間、費用は30万円前後です。
第4の壁は、投薬処方そのものの価格です。保険適用としても、薬価は研究開発・製造コストを含めた様々な要素により決められます。
エーザイでは米国での販売価格を、1人あたり年2万6500ドル(約386万円)としているので、日本でも年間100万円単位の高額の薬価となりそうです。ただし、高額療養費制度があるので、70歳以上の一般所得層、年収約370万~約770万円の場合は年間で14万4000円が上限となります。
最後の5番目の壁は、処方にあたり、副作用として脳の出血やむくみなどが報告されていること。専門知識を持った認知症専門医が必要で、投与は点滴で週2回となっています。
こうしてみると、期待の大きさの割には、レカネマブで治療に入る人は、MCIと初期患者の1割にも満たない、数万人程度とみられます。
どこが画期的なのかと思う方もいるでしょうが、この新薬の登場で、認知症治療が今後大きく変わっていくことが考えられます。今後はがんと同じく早期発見が重要になり、それによってさらに治療法が進歩するはずです。治験ではレカネマブの抑制効果は27%でしたが、今後はもっと効果がある新薬が登場するはずです。