2人に1人ががんにかかる時代。高齢のがん患者は、治療方法やその選択肢に制限が生じ、年齢を重ねるごとに、恐怖心は大きくなる。そんな不安に応えたのが、『がんの壁 60代・70代・80代で乗り越える』(飛鳥新社刊、1200円)。著書、佐藤典宏氏=写真=は、ユーチューブ『がん情報チャンネル・外科医佐藤のりひろ』で10万人を超える登録者数を誇るがん治療認定医資格を持つ外科医である。
高齢のがん患者の家族がやってはいけないこと
専門医だけに、具体的かつ実践的なアドバイスが並ぶ。手術件数の多い病院ほど死亡率が低い、がん専門医が勧める「信頼できる5つのがん情報サイト」、あるいは標準治療と代替医療のどちらを選ぶべきか—など。
患者の家族に向けた提言もある。「高齢のがん患者の家族がやってはいけないこと」として著者が挙げるのは次の3点。
- 患者に代わって治療方針を決めてしまう
- エビデンス(科学的根拠)のない治療を押し付ける
- 患者の仕事や体を動かす機会を奪ってしまう
家族として「良かれ」と思ってやってしまいがちなこうした行為が、結果として治療の足を引っ張ってしまう、ということは心得ておきたい。
がんになった高齢者に向けて、著者が特に勧めるのが「筋力アップ」だ。がんになると運動不足や精神的なショックから体を動かさないようになる上、進行がんになると血中に流れ出す炎症性サイトカインという物質の働きで筋肉が分解され始める。「筋肉量の減少」は、がん治療に悪影響を及ぼし、生存率を低下させることが、最近の研究で分かってきたというのだ。
高齢のがん患者にもできる筋力アップや瞑想
本書では高齢のがん患者にもできる運動や食事による筋力アップへの取り組み、またメンタルを安定させるための「マインドフルネス瞑想」などを丁寧に紹介している。
「高齢者向けのがんの本は他になかったので、高齢化社会に役立つのではと思ったのが企画したきっかけです。編集作業を通じ、標準治療の範囲で、がん治療がいろいろと進歩していることがわかりました」とは、飛鳥新社の江波戸裕子氏。
上手な終活の進め方についての章もある。早めに終活を済ませると、残りの人生が充実する—と説く著者は、がんと闘うのではなく、がんと上手に付き合うことで、残りの日々を悔いなく送ることができる—と指摘。江波戸氏は、「ご高齢の方やそのご家族が元気になれる本です」と自信を見せる。
すでにがんになっている人も、がんを怖がっている人も、まずはこの本でがんの本質を知ると、がんという病気と落ち着いて対峙できるはずだ。そして、その姿勢を持つことが、がん治療の効果を最大限に引き出すことにつながるだろう。
高齢のがん患者が抱える問題点
- 高齢者というだけで余命が短いが、元気な人と状態の悪い人では余命に開きがある
- 複数の持病を抱えていることが多い
- いくつもの薬を服用している
- 身体機能と認知機能が低下していることが多い
- 「死別」などで家族のサポートを受けられない人がいる
- 収入や貯蓄の問題から希望する医療が受けられないこともある