人知れず便秘に悩む人は男女とも少なくない。特に60代以降、その症状に苦しむ人が増える。スッキリしない状態が続くと日常生活に影を落とし、最悪の場合は何と命に危険が及ぶこともあるという。便秘の診断治療に精通する「鳥居内科クリニック」(東京都世田谷区)の鳥居明院長に対処法を詳しく聞いた。
男性は60代からの対処法を考えよう
厚生労働省の2022年「国民生活基礎調査」によれば、便秘を訴えた人の総数は約440万人。このうち約290万人は65歳以上が占める。特に男性は、便秘を訴える総数約162万人のうち、約124万人が65歳以上だった。女性は生理前や妊娠中など経験上、便秘に慣れている人もいるだろう。だが、不慣れな男性の場合、60代から“対処法”を考えておいたほうが良さそうだ。
「加齢に伴う腸管運動の機能低下やストレスによって、男性も高齢になると便秘を起こしやすくなるのです。男性は若い頃に便秘になった経験が少ない人が多く、どう対処していいかわからず、重症化する人がいるので注意が必要です」と鳥居院長は警鐘を鳴らす。
もちろん、女性も改めて、日ごろから便秘を警戒してほしい。
便が出ない状態が1週間以上も続くと、下剤を服用しても排便できないことがある。腹部膨満感や腹痛も伴って医療機関を受診し、浣腸を受けて排泄が難しいケースもある。さらに、浣腸などの薬での排便が難しい場合は、直腸に指を入れて摘み出す摘便(てきべん)といった治療の選択肢が出てくる。だが、患者も医療従事者も、なるべくならそれは避けたいところだ。便秘は放置せずに早めに改善することがなにより肝心だ。
便秘から腹膜炎、敗血症、多臓器不全も
「正常な便は、ほどよく水分を含み表面が滑らかですが、便秘の便は水分が少なく硬いのです。硬い便が腸に詰まることで、ひどい場合は腸壁を傷つけ、穿孔(せんこう)、すなわち腸に穴を開けることもあります」
便にはさまざまなタイプがある(別項参照)。便によっては、腸に穴が開き、便などが腹腔内に漏れて細菌による腹膜炎につながる。そして、増殖した細菌が血流に乗って全身に広がると、心臓など臓器の障害を引き起こす敗血症になり、多臓器不全で命の危機を招くことにもなるのだ。
「たかが便秘、されど便秘です。便秘を侮ってはいけません。便秘が続くときには消化器内科もしくは消化器外科で、大腸に詳しい医師に診てもらうことをおすすめします」
便秘と聞くと、一般的には「便が全く出ない」状態を思い浮かべがちだ。ところが、「ウサギの糞」のような便が少し出て、残便感がある場合も立派な便秘として診断される。
「便の異常は大腸がんのような病気のサインのことがあります。男性の場合、加齢とともに便秘にもなりやすく、大腸がんのリスクも上がります。自己判断は禁物です」
大腸がんは日本で罹患率が最も高く、がん死因の第2位になっている。また、腸以外の神経の病気などでも便秘の症状は起こることがあるという。何日も排便がスッキリしないときには、早めに医療機関へ受診してほしい。
便の形状チェック!(ブリストル便形状スケール)
- 【タイプ1】小さな塊がウサギのフンのようにコロコロとした状態の便
- 【タイプ2】いくつもの塊が集まってソーセージ状になった硬い便
- 【タイプ3】表面にひび割れがあるソーセージ状の便
- 【タイプ4】表面がなめらかで軟らかく、排便でするっと通るソーセージ状の便
- 【タイプ5】やわらかで半固形の便。容易に排便が可能
- 【タイプ6】境界がはっきりせず、不定形で崩れている泥状の便
- 【タイプ7】固形物を含まない液体状の便。水様便→タイプ1と2は便秘、タイプ6と7が下痢、タイプ3~5は正常範