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その「手の震え」はパーキンソン病? 早めの受診を

その「手の震え」はパーキンソン病? 早めの受診を
病気・治療
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手の震え…パーキンソン病の兆候?

年を重ねると「これ病気?」と思うような症状に見舞われることがあります。そのひとつ、手の震えが今回のテーマです。一般的に緊張したときに手が震えることがあるでしょう。文字が上手く書けなくなることもあります。この状態が、日常生活で緊張もしていないときに生じたら、どのような病気を想像しますか? 「パーキンソン病かもしれない」と思う人もいるでしょう。パーキンソン病は脳の病気で、手の震えなどの症状が知られています。

「中高年の手の震えは、本態性振戦(ほんたいせいしんせん)によることが多い。コップを持とうとする、あるいは、文字を書こうとするなど、動作をしようとしたときに起こる震えが特徴です」

こう話すのは、順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科の波田野琢先任准教授。パーキンソン病の臨床研究を行い、「手の震え」に悩む患者を数多く診ています。

「パーキンソン病は、体を動かしていない静止時に手足が震えるのが特徴です。初期段階では片方の手や足が震え、年月が経つうちに両方の手足が震えるようになります」

本態性振戦の「本態性」は原因不明を示し、「振戦」は震えを表します。つまり、原因がわかっていないけれども震えの症状が出るのが、本態性振戦です。一方、パーキンソン病は脳の神経伝達物質のドパミンが減少し、運動機能障害が起こります。そのひとつが手足の震えなのです。

パーキンソン病を放置しないで

「パーキンソン病は、ドパミンを作る神経細胞が破壊され脱落する病気で、α‐シヌクレインというタンパク質が変性し、凝集してレビー小体という塊が存在するのが特徴です」

本態性振戦は手の震え、声の震え、頭の震えのみですが、脳の神経細胞が破壊されるパーキンソン病では、動作がゆっくりになる、身体のバランスがとりづらいなど、病気が進行するとさまざまな症状を引き起こします。

「パーキンソン病は放っておくと、日常生活に大きな支障が生じるような状態にもつながります。早期発見・早期治療を行うことで、長い間、普通の日常生活が送れる病気です。気になる手の震えが続くようなら、一度、脳神経内科を受診してください」

手の震えは、甲状腺ホルモンが多く分泌される甲状腺機能亢進症(バセドウ病)や、アルコール依存症などでも生じます。長引く手の震えを放置するのは危険です。

「パーキンソン病は50歳以上で発症しやすい病気ですが、薬物療法や運動療法などを適切に行うことで日常生活を維持することは可能です。早期発見・早期治療をぜひ心がけていただきたい」

こう話す波田野医師は、パーキンソン病に関わるα‐シヌクレインシードを血液検査で、世界で初めて検出する技術を開発。国際学術誌「ネイチャーメディシン」に今年5月に掲載されました。現在のパーキンソン病の診断では、血液検査で簡便にわかる方法がないのですが、この研究を機に状況が変わることが期待されています。

「変性したα‐シヌクレインによる病気は、パーキンソン病以外にもあります。病気の早期発見と新たな治療法の開発に、これからも貢献したいと思っています」

解説
順天堂大学医学部脳神経内科先任准教授
波田野 琢
順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科先任准教授。医学博士。1999年、順天堂大学医学部卒。順天堂大学医学部附属順天堂医院脳神経内科准教授を経て現職。パーキンソン病の臨床と研究を数多く手がけ、新たな研究成果の臨床応用に尽力中。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。