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シニア世代が漢方に期待したい効能は「レジリエンス(回復力)」

シニア世代が漢方に期待したい効能は「レジリエンス(回復力)」
予防・健康
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漢方薬が医療機関で処方されることが多くなり、私たちが漢方薬に接する機会も増えてきた。特にシニア世代が期待したい効能は「レジリエンス(回復力)」だ。

日本で独自に発展した「漢方」


そもそも日本で「漢方」という言葉が使われるようになったのは江戸時代。当時広がり始めたオランダ伝来の医学「蘭方(らんぽう)」に対し、従来日本で行われていた医療を「漢方(かんぽう)」と呼ぶようになったのが始まりだ。

漢方は6世紀頃伝来した中国の伝統医学を元に日本で独自の発展を遂げたもの。「中医学(中国伝統医学)」と区別するために「日本漢方」と呼ばれる場合もある。

 

その後の文明開化の中で「古臭い医学」というレッテルを張られ一時衰退したが紆余曲折をへて復興し、今再びその力が注目されている。こうした歴史や現代的な捉え方などに関する書籍も多く出版されている。最初に目を通しておくと、その後の情報収集の助けになるだろう。

専門医の診察を受けるのがおすすめ

漢方医学で言う「五臓(ごぞう)」は臓器ではなく「システム」だ=表1。

その中の「腎気(じんき)」は生命エネルギーを意味する。

「シニアに多い腰痛や下肢の冷え、しびれ、身体のだるさ、夜間頻尿、排尿困難などは、加齢によって腎気が減少した『腎虚(じんきょ)』の状態と考えられます」と話すのは漢方指導医の萩原圭祐氏。漢方医療では五感を用いた「四診(ししん)」という診察法=表2=を用いて患者の病態を評価し治療法や薬を決めていくという。

ひとつの有効成分を化学合成で作る現代薬に対し、漢方薬は複数の生薬(しょうやく)を組み合わせて作られている。同じ生薬由来でも単体からなるドクダミやセンブリなど「民間薬」と言われるものと漢方薬は区別される。

「漢方薬を薬局で買うのはあまりお勧めできません。お手軽ですが、医療用に比べ有効成分が半分くらいで保険も適用されないので、結果的に高額になります」(萩原氏)

医療機関や専門医の検索サイト=表3=を探して診察、処方を受けるのがおすすめで、受診の際は「”この話は関係ないだろう”とご自身で壁をつくらないことです。ちょっとした生活の話や困りごと、不安などをありのまま話していただくことで解決のヒントがつかめることがあります」と萩原氏は言う。

レジリエンス(回復力)で改善をめざす

定年退職や転職など人生の岐路に直面することも多いシニア年代。不眠やうつなどストレス性の症状改善のカギとなるのが、「レジリエンス(回復力)」だ。

レジリエンスはもともと物理学用語で、金属を曲げようとしたときに元に戻ろうとする力を表わす言葉だが、今はビジネスや社会学・心理学領域でも使われている。萩原氏は漢方医学の中でレジリエンスの考え方が重要な位置を占めていることにいち早く注目。臨床、研究、調査と幅広く活動を行っている。

「診察を通して自分の癖や生活習慣を改善していくことも治療の一環です。主治医と『治療』という共同作業を進めるうちに、いつの間にかご本人のレジリエンスが誘導され、病気があっても悪化しにくく、長年悩んでいた症状も改善していくと思われます」(萩原氏)

今、医学の進歩によって「なぜ漢方が効くのか?」が科学的にひとつひとつ明らかになってきているという。漢方の力は超高齢社会を生きる日本人の強い味方になってくれそうだ。

萩原圭祐(はぎはらけいすけ)


1994年、広島大学医学部卒業、2017年から大阪大学大学院特任教授。医学博士、内科指導医、リウマチ指導医、漢方指導医。漢方「牛車腎気丸」の多彩な抗フレイル効果を解明し腎虚概念を基にした簡便なフレイルスクリーニング指標Japan Frailty Scale(JFS)を開発。日本で初めて、がんケトン食療法の臨床研究を推進、2023年3月に日本ケトン食療法学会を設立

執筆者
「健活手帖」 編集部