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【健活手帖インタビュー】麻木久仁子さん~乳がんと更年期障害、不安な日々を救った娘の一言

【健活手帖インタビュー】麻木久仁子さん~乳がんと更年期障害、不安な日々を救った娘の一言
コラム・体験記
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2022年11月に還暦を迎えたタレントで俳優の麻木久仁子さん(60)。乳がんと更年期障害に見舞われた50代を乗り越えた今だからこそ、病気を抱えた自分と向き合い、受け入れることの大切さが見えてきたそうです。

乳がん治療と更年期障害、続く不安な日々

「50歳で乳がんになって、放射線治療と女性ホルモンの働きを抑える治療をしたんです。人によっては女性ホルモンを抑えることで、イライラしたり、気持ちが落ち込んだりする不定愁訴を訴える人もいるそうですが、私はホットフラッシュと不眠が多かったですね」

これががん治療による影響なのか、更年期障害によるものなのか、当初は区別がつかなかったそうです。

「私は胸に放射線をあてていたので、汗腺がやられちゃって、胸の周辺は汗をかかなくなっていました。だから体温の調節が難しくて。ホットフラッシュもその治療のせいなのか、薬のせいなのか、はたまたストレスのせいなのか、分からなかったですね。さらに、ちょうどそのころ閉経も迎え、ホルモンのバランスが崩れたこともあったので…」

何が原因か分からない中で闘病が続きましたが、50代になって仕事をめぐる環境が大きく変わったことも少なからず影響したと考えています。

「50歳になって、タレントとしても曲がり角を迎えたんですよ。若いころのようにがむしゃらにもできない。仕事の中身もやり方も変わっていくんです。そんな不安の中で、体も調子が悪い。眠れない日が続くので、睡眠導入剤に頼ることもありました」

しかし、娘さんに言われた、ある言葉で薬に頼ることは避けようと強く感じたそうです。

「ある日、娘から『ママ、夜中にわけの分からないことを言ってたよ、やばいよ』と言われたんです。薬が効かない気がして、お酒も飲むようになっていたんです。で、夜中にひとりで怒ったり、泣いたり、愚痴ったりしていたそうです。でも私、全然覚えてなくて。それで、これではダメだと気付きました。そこから薬に頼るばかりの治療はやめようと心がけました」

更年期障害は、はっきりとした病名がすぐにつくわけではありません。むしろモヤモヤした気持ちを抱えながら、症状と付き合っていくことになります。そんなとき、家族とはどのように向き合っていたのでしょう。

「私の場合、日常生活に支障をきたすほど困難な状況ではなかったのですが、中には起きることもつらいという人もいます。そんなとき、家族からは『怠けている』と言われてしまいがちです。家族の方は理解して、支えてあげてほしいですね。病名もはっきりしないグレーゾーンのときが一番つらい。真面目な人ほどプレッシャーを感じてしまいます。そして今、苦しんでいる人に伝えたいのは、更年期障害はいつかは終わるということです。だから、体がつらければ、無理をせず、堂々と休めばいいんですよ」

友人や家族、理解してくれる人が必要

どのようなタイミングで医師に相談すればいいのでしょう。

「体がつらい、気持ちがモヤモヤするぐらいで医者にかかるのは、と思いがちです。私もそうでした。だけど、体がどうしてもつらいときは、医者に診てもらうほうがいいと思います。たとえ病名が分からなくても、何かに治療を受けたということ、医者に診てもらったということだけでも不安が取り除かれることがあります。不安がひとつなくなるだけでも状況はかなり変わりますよ」

しかし、決して気持ちの持ちようだけでは解決できないこともあるのではないでしょうか。

「更年期障害は症状も苦しいですが、誰も自分のことを理解してくれないという不安もあります。症状はきちんと治療を受けることが必要でしょう。不安はどうやって取り除くのか。まずは家族なり、友人なり、自分を理解してくれている人がいるということを知ることです。もうひとつの不安は、自分はこんなはずじゃなかったのに、もっと頑張れるのにという思いです。これは今の自分の体力や病状を理解できていないから起きるんです。だから、きちんと病気を受け入れ、理解することが気持ちを和らげることにつながるでしょう」

病気を受け入れ、向き合うことには、2016年に国際薬膳師の資格を取得したことも大きく効果があったそうです。

「薬膳だからといって、食べるもので病気が治るというわけではありません。大切なことは、自分の体調にあったものを食べるということなんです。きょうは調子が悪かったからおかゆにしようとか、頑張ったからお肉を食べようとか。そのためには、きょう一日どうだったかと自分の体にしっかり向き合うことが必要です。そうすれば、これ以上無理をしたら体調を崩してしまうから体を休めようとかも見えてくるでしょう。薬膳はそのきっかけなんです。そのときの自分に一番必要なものは何か。食べ物か休養か、リラックスできる娯楽か。なんでもいいんです。今の自分を受けいれてください」

(取材・福田哲士、撮影・岩崎叶汰)

麻木久仁子(あさぎ・くにこ)

俳優、タレント。1962年11月12日生まれ、60歳。東京都出身。1983年にタレントとしてデビュー。1990年代には「TVおじゃマンボウ」(日本テレビ)などの司会で活躍した。テレビやラジオで司会者、コメンテーターとして活動するほか、クイズを中心にバラエティー番組にも出演。読書家としても知られる。2010年に脳梗塞、2012年に乳がんに罹患し、手術を受ける。2016年には国際薬膳師の資格、2020年には温活指導士の資格も取得した。主な著書に『ゆらいだら、薬膳』(光文社)、『おひとりさま薬膳 還暦からのごきげん食卓スタイル』(光文社)など。

執筆者
「健活手帖」 編集部