遺伝子異常で加速する老化
そもそも「老化」とは、いったいどのような現象なのだろうか。銀座アイグラッドクリニックの乾雅人院長は、「『加齢』≒『老化』だった状況が、『加齢』≠『老化』の文脈に変わったことを、まず意識してください」と言う。
「これまで両者は混同して認識されがちでした。しかし、老化の本質が分かり、老化を治療できる世界観が提唱されたことで、区別をする必要が出てきたんです」
加齢と老化の区別とはどういうことなのだろうか。
「加齢とは、一定方向に一定速度で進むものです。対応する暦年齢は、生年月日と現在の日付だけで決まります。英語表現も『エイジング(aging)』であり、老化に相当する『セネッセンス(senescence)』とは、そもそも違う概念です。みなさんは日常生活の中で、肌年齢や血管年齢、筋肉、髪質、体内組成など、努力によって若返ったと実感することがあるかと思います。この生物学的年齢ともいうべきものは、加速したり、巻き戻ったりしていることは、伝わりやすいのではないでしょうか」
早期老化症「ウェルナー症候群」とは
老化と加齢の違いについて乾院長は、実年齢に比べ、白髪や脱毛、白内障などの現象が起こりやすい病気「早期老化症」を例にあげ解説する。
「ウェルナー症候群という、早期老化症という難病が知られています。原因はウェルナー遺伝子の異常であり、この遺伝子異常によって、老化が加速する病気として知られています。不妊治療の際に耳にするダウン症候群も、早期老化症の一種です。従来は、原因が不明で、老化が加速した結果、症状として呈する老年症候群(白内障や高血圧、糖尿病など)に対する対症療法ばかりが行われてきました」
「しかしながら、根本原因が遺伝子の異常であるならば、その遺伝子異常を治療することで、老化そのものを治療することが可能と考えるのは自然なことです。ゲノム解析というテクノロジーが発達したことで、老化という病のメカニズムが分かってきました。今、まさに、老化という病の治療法が模索されている真っただ中なのです」
WHOが作成する国際疾病分類(ICD—11)の2019年改訂版がある。
「そこに『老化は治療対象である』という概念が盛り込まれたことが大きなインパクトでした。『XT9T』という行政コードが制定され、その意味は『老化に関連した』という意味合いです。一般的な保険診療の現場でも、数年後には、この行政コードが使用されることが予想されます」
老化は病気として治療するもの。そういう時代が訪れている。
(取材・太田サトル)