更年期障害のような症状を引き起こす心臓病
更年期世代は、倦怠感や息切れ、冷え性、むくみ、足がつるなど、さまざまな不調を抱えることがあります。このよう症状を引き起こす心臓病もあるので注意が必要です。そのひとつが、心臓の弁が悪くなる僧帽弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症です。
「心臓は4つの弁によって、血液が一定の方向に流れて逆流しない仕組みがあります。そのひとつ僧帽弁がうまく開かなくなるのが僧帽弁狭窄症で、流れる血液量が減少します。僧帽弁がきちんと閉じなくなる僧帽弁閉鎖不全症では、血液が逆流しやすくなるのです」
こう説明するのは、東邦大学医療センター大森病院循環器センター(心臓血管外科)の藤井毅郎主任教授。僧帽弁閉鎖不全症などの弁膜症や大動脈疾患、心筋梗塞などの外科的な治療を数多く行うエキスパートです。
「最大の原因は動脈硬化です。女性の場合は、閉経で女性ホルモンのエストロゲンの分泌量が急激に低下すると、高血圧や肥満によって動脈硬化が進行しやすくなります。その結果、僧帽弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症を起こしやすくなるので、注意が必要です」
心臓の血液は、左心房→左心室→大動脈へと流れて全身を巡ります。左心房と左心室の間にある弁が僧帽弁です。左心房から左心室へ血液が流れるときに僧帽弁が開きますが、弁が変性してうまく開かなくなるのが僧帽弁狭窄症です。本来は左心室へ流れる血液量が少なくなるため、大動脈へ送って全身を巡るはずの血液量も減少します。
この状態が続くことで心臓の機能は低下し、やがて息切れや全身倦怠感、むくみなどの症状につながるのです。
一方、僧帽弁閉鎖不全症は、弁がうまく閉じないために血液が左心室から左心房へ逆流し、大動脈へ送る血液量が減ることになります。
「血液の量が減ると腎臓が作る尿の量も少なくなり、体内の余分な水分を排出できなくなります。それがむくみにつながります」
ひと晩寝ても治らないむくみに注意を
長時間の立ち仕事やデスクワークでは、夕方になると足がむくむようなことは起こりがちです。動脈で足元まで流れた血液は、静脈を通って重力に逆行しながら心臓まで戻ります。重力への抵抗が弱いと血液の流れが悪くなり、血管からしみ出た水分が細胞と細胞の間にたまり、むくみが生じます。それとは異なるむくみが、僧帽弁閉鎖不全症で起こるのです。
「一般的なむくみは、足を高く上げたり、ひと晩眠ることで治ります。僧帽弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症によるむくみは、ひと晩寝ても治りません。腎機能が低下しているときもしかりです。治らないむくみは放置せずに、医療機関を受診しましょう」
僧帽弁が悪くなっていても、初期段階では無症状のことが多いそうです。健康診断の心電図でも、異常は見られません。ただし、僧帽弁など心臓の弁が不具合になっていると、聴診器を当てたときに「ザーザー」といった雑音が聞こえるそうです。健康診断での聴診器の検査で、不具合が見つかる人もいます。
「僧帽弁狭窄症や僧帽弁閉鎖不全症は、人工弁置換術や弁形成術といった手術で治ります。放置して心臓に負荷をかけ続けると、心臓肥大といった治らない状態にもつながります。放置しないようにしましょう」と藤井教授は警告します。