“こうあらねばならない”という思考のワナに気づく
うつ症状による休職者の増加が、社会問題になって久しい。東京医療保健大学医療保健学部の廣島麻揚教授は、うつ病休職者のケアや研究を行ってきた。
「うつ症状の改善にもレジリエンス(精神的回復力)を育むことは効果的です。“こうあらねばならない”といった思考のワナに気づくことで、視野を広げられます」
それなりの時間もかける必要がある。
「仕事のシーンで、どのように自分をコントロールしていけばいいかを意識し、休職期間中におおよそのコツをつかんで復職されます。業種や職場環境にもよりますが、復職して仕事を続けられる人もいますが、1回の休職で完全復帰するのは難しいことがあります」
職場復帰には、本人の意識だけでなく、周りの支援や環境を整えるなど課題は多い。周囲の人は、うつ状態の人をどう見抜けばいいのか。
「わかりやすいのは、いろんなことをおっくうがったり、面倒くさそうにしたり、今まで好きだったスポーツや趣味を楽しんでいなかったり—これらは気に留めるべきサインです。また、“イライラしている”も、うつのサインであることがあります。周りはまさかうつとは思わないですが、“こうあらねばならない”のに、できない自分へのイラ立ちが他人にも向けられるようになっていくのです。温厚だった人が理不尽に怒るようになったら、うつ状態に陥っていく可能性もあるので気にしてほしいです」
弱った自分のご機嫌をとる方法
うつ状態から休職まで追い込まれる人の特徴は、①明らかなオーバーワーク②圧倒的な睡眠不足③そこに部署異動、転勤、昇給への不満—など仕事で新たなストレスが加わると、会社に行けなくなってしまうという。
復職後のケアも大切で、「無理な働き方をしていないか」を常に確認していくという。うつ状態を自覚できないまま、引きこもってしまうと、回復は非常に厳しくなるという。
「休職し、仕事と離れた状態でメンタルケアをしていけば、ある程度回復します。同じ環境に戻ったとしても、考え方を変えるクセをつけて、働き過ぎないようにコントロールしていく。ただ会社側もサポートする環境を整えないと難しいです」と廣島教授。
自分で“弱った自分”のご機嫌をとる方法を改めて廣島教授に聞いた。
「ストレスに弱いのは生まれつきではありません。性格は変えられなくても、考え方を変えることはできます。そのためには、やはりきっかけが必要です。それがレジリエンスやWRAP(元気回復行動プラン=自分で自分が弱ったときの対処法を書き綴った“取扱説明書”を作成する)といった手法です。見方を変えると、悪いと思っていたことが、実は自分にとって良いことだったことに気づいたりします」
うつ症状は決して他人事ではない。
「ストレスで問題を抱えている当事者だけなく、周囲の人も自己分析をする機会を持つことをおすすめします。自分を知って対応を変えてみると、職場や家族との関係性にも変化が生まれます。うつの治療や回復についても自己理解はとても重要です」
自分を守る術を知っておこう。
廣島麻揚(ひろしま・まよ)
東京医療保健大学医療保健学部看護学科教授。博士(保健学)。東京大学医学部、東京大学大学院医学系研究科博士課程、京都大学大学院医学研究科准教授などを経て現職。専門は、精神障がい者の社会参加をはじめ、医療事故防止、高齢者に対する精神看護学など幅広い。精神神経学会、看護管理学会、自殺予防学会、精神障害者リハビリテーション学会ほか多くの学会に所属する気鋭の研究者。