尿漏れだけではない!骨盤臓器脱も
不快な尿漏れは、加齢に伴う骨盤底筋群の機能低下で起こります。女性は出産でも骨盤底筋群がダメージを受けるため、20~30代でも尿漏れに悩むことがあります。加えて、骨盤底筋群の低下は、「骨盤臓器脱」を引き起こすことがあるので注意が必要です。
「骨盤底筋群は、膀胱や直腸、子宮をハンモックのように支え、尿道、肛門、腟の開閉にも関わります。その機能が低下することで、腟から子宮が下垂する骨盤臓器脱を引き起こす人がいます」
こう説明するのは、城西国際大学の横井悠加准教授。日本理学療法学会連合日本ウィメンズヘルス・メンズヘルス理学療法研究会副理事長で、国内での骨盤底筋群の低下に伴う障害で悩む人を数多く救っています。
「女性は更年期以降、女性ホルモンの急激な減少に伴い、肛門と腟の辺りを含む会陰部(えいんぶ)が痩せてしまうことで、腟を閉めて圧迫する力が弱くなります。骨盤底筋群の機能低下も重なり、骨盤臓器脱になってしまう人が、50代以降増えるのです」
入浴中にピンポン玉のような骨盤臓器脱に気づき、「がんかもしれない!」と婦人科に駆け込む人もいるといいます。子宮に限らず、直腸や膀胱が飛び出すこともあります。ただし、ピンク色の玉を確認してショックを受けても、家族や友人に相談するのが恥ずかしいと考えるのが日本では一般的です。1人で悩みを抱えたまま「どうしたらいいのかわからない」という人もいるでしょう。
1人で悩まないで
「欧米では、骨盤底筋群の教育やトレーニングで、骨盤臓器脱のことも学ぶ機会が多い。日本では、出産前後の骨盤底筋トレーニングは保険適用ではありません。教育する機会が少なく、個人的に知識がないため、1人で悩みを抱えている方が多いと考えられます」
骨盤臓器脱になっても早期段階では症状に乏しく、ある日、突然、ご本人やパートナーが気づくパターンが多いそうです。下着や自転車のサドルでこすれると痛みが走るため、自転車に乗れなくなるなど、日常生活にも支障が生じることもあります。
「骨盤臓器脱に気づいたら婦人科を受診しましょう。軽症であれば骨盤底筋トレーニングで改善できます。かなり臓器が出ているような場合は、手術なども適用になりますが、まずは医師の診断を受けることをお勧めします」
ただし、手術をしても約36%の人が再発するとの報告もあるため、骨盤底筋トレーニングも欠かせません。日頃から鍛えておくと、骨盤臓器脱も起こりにくくなります。
「多くの人は、肩が痛くて腕が上がらなくなったら、整形外科を受診するでしょう。尿漏れや骨盤臓器脱になったら、欧米では当たり前のように女性泌尿器科や婦人科を受診します。日本でも実現したいと思っています」
尿漏れや骨盤臓器脱は、デリケートゾーンに関わるため「受診するのが恥ずかしい」と思われがちですが、「骨盤底筋群の機能低下に伴う症状」と考えるとよいそうです。
「受診によって適切な治療を受けることで、悩みが解消され、以前のような日常生活を取り戻すことは可能です。私たちはそのためのサポートをしています。1人で悩まないようにしましょう」と横井准教授はアドバイスしています。