がん発症後のビタミンD摂取でも死亡率低減
ビタミンDは、カルシウムの吸収をサポートし、骨を強くすることがよく知られている。さらに注目すべき有用性として、ビタミンDのサプリメントを毎日とっていると、がん死亡率を下げることが新たにわかった。研究責任者の東京慈恵会医科大学分子疫学研究部の浦島充佳教授に詳しく聞いた。
国内では年間38万人以上ががんで亡くなっている。医学は進歩し、胃がん原因となるヘリコバクター・ピロリの除菌や、肝がん原因のC型肝炎の治療などで、患者数を減らしたがんもある。一方、がん検診での早期発見・早期治療によってがんを克服できる道も開けた。それでも、年間およそ100万人ががんを発症し、診断を受けた時点で「進行がん」といわれる人は少なくない。膵がんのように治療が難しいがんも依然としてある。
さて前置きが長くなったが、2023年3月31日、浦島教授らの論文が海外の科学雑誌に掲載された。国際共同研究で10万人のデータ解析によって明らかにした結果が注目を集めた。
ビタミンDのサプリメントを毎日取っていると、がんの種類に関係なくがん死亡率が12%減少。がん発症後に毎日ビタミンDのサプリメントを取った場合も、がん死亡率が11%下がったのだ。がんになる前からだけでなく、診断後に摂っても死亡率の低減に役立つことが分かったのは画期的だ。
ビタミンDが、がんと闘う自然免疫をバックアップ
「がん細胞は、正常な細胞の遺伝子が変異することで毎日のように生じています。それを駆逐しているのが、私たちの体に備わっている自然免疫です。ビタミンDは自然免疫を調整する働きがあるのです」と浦島教授は説明する。
加えて、ビタミンDががん細胞に侵入し、ブレーキを踏むように増殖速度を落とす役割も考えられるという。いずれにしても、10万人規模の国際共同研究によって、ビタミンDのサプリメントでがん死亡率が下がることが証明された。
ならば、がんと診断された時点で、ビタミンDを大量に摂るという発想もあるだろう。しかし、今回の研究結果では、月1回のビタミンDの大量内服では、死亡率の低減につながっていない。
「大量に摂っても、体内で不活化酵素が多量に誘導されることで、かえって多くのビタミンDが活性を失うため、メリットがないと考えられます。健康な大人のビタミンDサプリメントの目安は、1日1000~2000IU(マイクログラム換算では25~50μg)と考えられます」
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の1日のビタミンDの基準値の目安は、18歳以上で1日8.5μg、上限は100μgなので、1日25~50μgは基準範囲内となる。健康な人もがんと診断された人も、適量のビタミンDを毎日摂取することで、がん死を退ける一助となるのは福音だ。
浦島充佳教授らの研究成果のポイント
- ビタミンDサプリメントの連日内服により、がん種に関係なくがん死亡率が12%減少した
- 70歳以上の場合はがん死亡率が17%減少し、高齢者で特に有効だった
- がんの発症前から連日で内服していた場合は13%、発症後でも11%のがん死を予防した
- 連日の内服は有効だったが、月1回の大量内服では無効だった
※「ビタミンDサプリメントを摂取すると癌の死亡率は12%減少する」リリースより