骨盤底筋群の機能低下で尿漏れ
年を重ねると男女とも、骨盤の底で臓器を支える筋肉「骨盤底筋群」の働きが低下し、デリケートゾーンにさまざまな悩みを引き起こします。その症状や改善・予防法などについて、多くの患者を救っている城西国際大学の横井悠加准教授に聞きました。
くしゃみをしたとき、尿が漏れそうになったことはありませんか? エアコンの冷たい空気に鼻をくすぐられて思わずくしゃみをした瞬間、尿が漏れてしまうような状況です。このようなことが骨盤底筋群の機能低下で起こります。
「骨盤底筋群は、10以上の筋肉から成り立ち、膀胱や直腸といった臓器をハンモックのように支えています。女性の場合は子宮も含まれます。尿道、腟、肛門の3つの穴の開閉を司っています。この機能が弱まると、くしゃみをしただけで尿漏れを引き起こすのです」と横井准教授は説明します。
臓器を支える骨盤底筋群がきちんと機能しているときには、尿道や肛門も開閉がスムーズです。骨盤底筋群の機能が低下すると開閉が上手くいかなくなり、くしゃみをした反動で尿道が開くようなことが起こります。特に女性の場合は、尿道の長さが短いため、尿道が開くと尿が漏れやすいのです。男性は、尿道が長いのですが、前立腺がんなどで前立腺を切除した場合には、尿漏れを起こしやすくなります。また、男性は腸が短いために便漏れも起こしやすくなるそうです。
いずれにしても、骨盤底筋群の機能は維持することに越したことはありません。が、加齢とともに衰え、女性の場合は、出産経験にも影響を受けます。
出産でダメージ
「出産で腟(ちつ=医学用語では膣ではなく「腟」)から赤ちゃんの頭が出るときには、必ずといっていいほど骨盤底筋群はダメージを受けます。通常の筋肉は、1.5倍の長さまで伸ばされるとダメージを受けますが、赤ちゃんの頭が通過するとき、平均2.5倍、3倍以上にも伸ばされることもあるのです」
加齢と出産で誰でも起こりえる尿漏れは、思わぬ瞬間に下着を濡らして不快感をもたらし、ニオイも気になることがあります。中には、市販のおりものシートや生理用ナプキン、尿漏れ専用パットを活用している人もいるでしょう。それでも、不快感や不安感が募ると、外出を控えることにもつながります。いつ何時起こるかもしれない尿漏れに、悩む人は少なくありません。
「欧米では、骨盤底筋トレーニングが当たり前のように行われています。産後の女性も普通に受診する体制になっています。日本には、そのような体制が保険制度に導入されていません。本当に困った人が自費で骨盤底筋トレーニングを受けているのが現状です。この状況を変えたいと思っています」
日本では、「尿漏れ」に悩んでも気軽に相談できる雰囲気に乏しく、誰かに相談するのは恥ずかしいと思うのが一般的です。「どこへ行ったら治るのかしら?」と考えているうちに。症状がひどくなってしまう人もいるので注意が必要です。
「症状に悩まれている方は、まず女性泌尿器科を受診して相談しましょう。適切な指導や骨盤底筋トレーニングで、尿漏れは解消できます」と横井准教授はアドバイスしています。