一般の人には理解しにくい医療者向けガイドライン
そもそもガイドラインとは、その病気の診断と治療に関わる医療者が、最新の研究と臨床における課題を持ち寄り、時に侃々諤々(かんかんがくがく)の議論を重ねたうえで練り上げる治療の指針。言い換えれば「お医者さんの教科書」のようなものだ。一般的に言われる「標準治療」とはこのガイドラインに従ったものを指し、患者側もその内容を知っておくことは、特に膵がんのような治療の難しい病気においては重要になる。
かし、医療者向けのガイドラインは、言葉も表現も難解で、一般の人には理解しにくい。『患者・市民のための膵がん診療ガイド』(金原出版、2640円)編集委員会の委員長で国立がん研究センター中央病院肝胆膵内科長の奥坂拓志医師=写真=が発刊の意味を語る。
「患者や患者になり得る一般の読者にとって重要であるだけでなく、医学的・科学的に根拠のある最新情報をできるだけわかりやすく伝えることが本書の目的です。膵がんに対する知識や、ガイドラインが推奨する診断や治療などについての理解を深め、その人に最も適している治療の選択、また病気に対する不安を和らげることで、よりよい生活を送るために役立てください」
なにより書かれた内容はすべてエビデンス(科学的根拠)に基づいている点は、読者にとって最大の信頼感を得られるだろう。
書店に行けば病気や臓器別の解説書が数多く並んでいるが、ほとんどの場合1人の医師の考えに基づいて書かれている。
患者会や家族も執筆メンバー
だが、この診療ガイドは、国内の60人を超える医療者や医療の質の向上に寄与する役割を担う公益財団、さらには患者会や患者の家族代表なども交えた「膵がんを中心に置いた多職種のメンバー」によって作られていることが最大の特長だ。
「膵がん治療の専門家が作成した原稿を、患者・市民委員と患者会のメンバーが“患者・市民の視点”から再検証して作っていきました。立場や考えの異なる多くの人々が膨大な時間と労力をつぎ込んだ1冊であり、これまでの書籍とは異なる苦労がありました」と奥坂医師は振り返る。
膵がん治療中の患者や、膵がんを疑い検査中の人はもちろん、家族や介護者、さらには膵がんという病気に不安を持つすべての人が知るべき情報が網羅されている。
現状では膵がんは、がんの中でも最も予後が悪いとされるが、今後さらに増加することが予想されるだけに、この本の重要性はますます高まりそうだ。
膵がんの危険因子
- 家族歴
- 遺伝性リスク
- 喫煙
- 飲酒
- 糖尿病
- 肥満
- 慢性膵炎
- 膵管内乳頭粘液性腫瘍(IPMN)
- 膵のう胞、膵管拡張などの膵画像所見