変形性股関節症の特徴
朝起きて立ち上がったときに脚のつけ根が痛み、身支度を整えるなど歩いているうちに違和感は薄らいでいく。このような症状があると、「年のせい」「運動不足」などと考えるかもしれない。だが、しばらくたつうちに、歩くたびに痛みが走るような事態を招く。その代表的な病気が、変形性股関節症だ。
「国内の変形性股関節症の患者さんの約9割は、単なる老化による骨の変性ではなく、もともと寛骨臼(かんこつきゅう)形成不全や、乳児期の発育性股関節形成不全によって、股関節が変形しやすいことに関わります」
こう説明するのは、NTT東日本関東病院人工関節センター長(整形外科医長兼務)の大嶋浩文医師。股関節の病気の診断・治療を得意とし、数多くの治療を行っている。
「発育性股関節形成不全は遺伝性があるとされ、家族歴がある方は注意が必要です。また、赤ちゃんのときの横抱きなども影響するといわれており、生まれながらにして、もしくは成長の過程で股関節が亜脱臼(正常な位置からズレた状態)していきます。適切な治療を受けないと、中年期以降に高率で変形性股関節症になってしまうので注意が必要です」
薬物療法に運動療法を加える
股関節はお椀のような寛骨臼に、太もものつけ根のボールのような形をした大腿骨頭(だいたいこっとう)がハマることで、股関節がスムーズに動く仕組みになっている。しかし、寛骨臼形成不全では、簡単にたとえると、寛骨臼がお椀ではなく皿のような浅い形状になっているため、股関節の不安定感が強まることで負荷がかかりやすくなる。その結果、軟骨がすり減り、骨同士がぶつかって変形する変形性股関節症を起こしやすいのだ。
「膝関節と同様に、股関節も体重の3~5倍の力がかかります。寛骨臼形成不全で体重の増加、運動不足によって股関節周辺の筋力の低下などが重なると、比較的若い40代頃から変形性股関節症に悩まされることがあります」
変形性股関節症は、骨の変形がそれほど進んでいない場合の治療は、消炎鎮痛剤などの薬物療法と適切な運動療法を行うことで、筋肉量を増やすことで痛みの軽減につなげる。
「適切な運動によって股関節を守ることができれば、進行予防にも役立ちます。また、女性の場合は、閉経後の骨粗鬆症で骨がもろくなると、大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(だいたいこっとうなんこつしたぜいじゃくせいこっせつ=SIF)にもなりやすいので注意が必要です」
SIFは、文字どおり大腿骨頭の軟骨の下の部分の骨が潰れたような骨折である。軟骨の下の骨ゆえに、脚の付け根の激痛で整形外科を受診してエックス線検査を受けても、見た目には骨折がわからないことが多い。
「自転車に乗っていて地面に足をついた瞬間や、振り返るときに足をねじった瞬間に、潰れるように骨折します。MRI(核磁気共鳴画像法)検査ではわかります。運動習慣で骨を強化することも大切です」と大嶋センター長はアドバイスする。
大腿骨頭軟骨下脆弱性骨折(SIF)とは
近年、浸透しつつある病態。大腿骨頭は、脚の付け根の股関節の骨のこと。骨粗鬆症に関連して大腿骨頭の骨がもろくなり大腿骨頭の表面を覆う軟骨の下の骨が潰れるように骨折する。あまり知られておらず、「原因不明の激痛」で済まされてしまうケースも。人工関節に置き換える手術(人工関節置換術)によって、元の生活を取り戻すことが可能。