5月は、春の生活環境の変化に伴うストレスを引きずりやすく、女性は更年期が重なると、女性ホルモンの変動で自律神経がより乱れ、さまざまな症状を引き起こします。中でも、気持ちのコントロールが難しくなる方もいるでしょう。イライラが募って他人に八つ当たりをし、自己嫌悪を強く感じてしまうと、うつにつながるため注意が必要です。そこで、ここでは「更年期のイライラや落ち込み」についてご紹介します。
更年期障害の女性は、ホットフラッシュや倦怠感、頭痛や肩こりの悪化など、体調不良を抱えて気分が優れません。そんなときには、ちょっとしたきっかけで怒りが爆発してしまうことがあります。体調不良のときに怒りが込み上げやすいのは男性も同じでしょう。
一気に怒りが爆発するようなときのことわざに、「頭から湯気を立てる」というのがあります。怒り心頭の方は、顔を真っ赤にして目を吊り上げ、まるで湯を沸かしているやかんのように見えるからでしょう。湯気が立った状態を落ち着かせることができれば、当然、怒りも収まります。でも、更年期障害のような状態で「湯気が立っている」と、やかんをコンロから外すように簡単にはいかないのです。
東洋医学では、このような症状を「肝(かん)」の異常と捉えます。「肝」とは、肝臓のことだけを示しているのではなく、もっと広い概念を持ちます。気の流れを通して感情の起伏を調整し、自律神経の働きを整えて、体全体の機能を保つ役割があります。落ち込みやイライラなど精神的な不安定を調整する働きもあります。
更年期障害でイライラが止まらない方は、まさに「肝」の異常と捉え、「肝」を整える「加味逍遙散(かみしょうようさん)」を服用するのが一般的です。イライラやホットフラッシュ、肩こりなどのある方は「肝陽上亢(かんようじょうこう)」や「肝気鬱結(かんきうっけつ)」という状態にあり、特に効果的です。
一方、自己嫌悪などでどーんと気分が落ち込んでしまったとき(東洋医学では気滞といいます)には、「香蘇散(こうそさん)」という漢方薬が効果的です。
更年期障害に限らず、「五月病」といわれるようにゴールデンウイーク明けは、気分の落ち込みが激しい方がいるでしょう。そんな方にも「香蘇散」がお勧めです。「蘇葉(そよう)」や「陳皮(ちんぴ)」などの5つの生薬から成る漢方薬です。「蘇葉」は赤シソから作られています。気分の変調を正常に導く力(東洋医学では理気作用といいます)が、シソには秘められているのです。
「香蘇散」は、気分の変調を改善することに加え、胸が詰まる感じや吐き気、咳といった風邪の症状などにも効果があるとされています。気分が落ち込んで激しく泣くような状態では、胸が詰まるような感じになりませんか? それらの症状は、東洋医学では全てつながった現象なのです。詳しく説明すると長くなりますので、別の機会のときにお話をいたします。
気分の落ち込みを防ぎたい方、すでに落ち込んでしまった方は「香蘇散」、イライラする方は「加味逍遙散」を服用してみると良いでしょう。もちろん、その方の体質によって必要な漢方薬は異なります。症状があるときには医師や薬剤師にご相談ください。