先日ふらりと書店に立ち寄って、面白いタイトルの本と出合いました。『「傷つきました」戦争 超過敏世代のデスロード』(カロリーヌ・フレスト著、堀茂樹訳/中央公論新社)。フランスの著名な女性ジャーナリストが書かれたものです。
帯にはこんな惹句がありました。<人の立場や出自で行動をジャッジし、「傷つきました」の一言で議論が終了…
言い得て妙で、思わず笑ってしまいました。SNSがコミュニケーションの主流となった今、「超過敏な人たち」が増えているように思います。ときどき医学生に教える機会がありますが、「死体を見るのが怖いからお看取りのない病院に行きたい」と言う学生もいます。こんなに繊細で、果たして医者になれるのかなと心配になることも。ふと、この人が以前話していた言葉を思い出しました。
「学校でカエルの解剖さえしなくなっている。『命を殺すから』というんですが、それは科学でもなんでもありません。生きていくにあたり、生き物に体ごとぶつかるというのはとても大切なことです」
生き物に体ごとぶつかり続けた人生…ムツゴロウさんこと、作家の畑正憲さんが4月5日、北海道中標津町の病院で死去しました。享年87。死因は心筋梗塞との発表です。ムツゴロウさんは6年ほど前に心筋梗塞を発症し、その後は入退院を繰り返していたとのこと。最近は衰弱が顕著で亡くなる1週間前に容体が悪化し、再び入院したその日に帰らぬ人となりました。
高齢になるほど、心筋梗塞など心疾患のリスクは高くなります。心筋梗塞の場合、急激な胸の痛みや締め付けられる感覚、胸やけや吐き気、息苦しさ、冷や汗などの前兆が現れます。おかしいと感じたらすぐに救急車を呼びましょう。
しかし超高齢者では、こうした症状が現れずに進行することもあります。朝起こしに行ったら呼吸が止まっていたという場合、苦しまずに逝った可能性が高いです。
ムツゴロウさんは、最初の発症から6年経過ということですから、おそらく良質な医療を受けて病気と向き合っていたのでしょう。
しかし思い返せば、かつて彼が出ていたテレビでは、ライオンに噛みつかれたり、牛のおしっこを嬉しそうに飲んだり、さまざまな野生動物とべろべろとキスしたり、グロテスクな昆虫を丸かじりしたりと、今ならば視聴者から「不衛生!」「傷つきました」とクレームが来そうな放送も多々ありました。さらには連日徹夜麻雀をしたり、煙草を晩年も一日20本吸っていたといいますから、「よくぞそんな生活を続けて87歳まで生きられましたね!」と医者としては驚愕(きょうがく)の思いです。人と対峙(たいじ)するよりも動物と対峙したほうがストレスなく生きられたのでしょうね。