3月は女性の権利について考える女性史月間でした。「ジェンダーギャップ指数」という言葉を昨今目にするようになりましたね。
国際機関である世界経済フォーラムが、社会的・文化的な性差の不平等を可視化するために2006年から公表しているもので、2022年の調査結果では、日本は146カ国中116位でした。
医療の世界でも悩ましい問題ですが、特に日本では女性の政治参加がなかなか進まないといわれています。2022年9月の調査によれば、わが国の国会における女性比率は15.4%(衆院だけでは10%以下)。先進国の中で最低レベルといわれ続けているなかで、この人の訃報がありました。
宝塚の人気スターから政治家へと転身し、女性で初めて参院議長を務め、国土交通大臣などを歴任した扇千景さんが3月9日に、都内の病院で亡くなりました。享年89。死因は、食道胃接合部がんとの発表です。
食道胃接合部がんとは、食道と胃のつなぎ目の部分にできたがんのことをいいます。初めて聞いたという人もいるでしょう。以前はその範囲によって食道がんか胃がんのどちらかに分類していたのですが、10年近く前から新しい呼び名がつくようになりました。このがんは、食道がんと胃がんの両方の特徴をもっています。
ピロリ菌除菌などにより、日本人の胃がんは減少傾向にある一方で、食道胃接合部がんは年々増加傾向にあります。このがんの発生には、逆流性食道炎が関係していることがわかっています。皮肉なことにピロリ菌感染が減って胃が元気になった分、胃酸の分泌が増えて逆流を起こし、粘膜を傷つけてしまうことでこのがんのリスクを高めてしまう。
さらに、肥満や加齢も逆流性食道炎のリスクになります。胃酸の逆流が多いと感じる人は、一度医師に相談してみてください。また、寝る直前に食事をすることも逆流性食道炎のリスクを高めます。
扇さんは高齢だったこともあり、積極的な治療はしなかったのかもしれません。長男の中村鴈治郎さんと次男の中村扇雀さんによれば、入院期間は1カ月あまり、最期はとても穏やかな旅立ちだったとか。
扇千景さんは2007年に政界を引退。その後上梓した回顧録では、女性議員ならではの苦労についても多く触れていました。
男尊女卑が根強く残る世界で、セクハラまがいのことも受けたといいます。女性初というプレッシャーのもと、耐えることの多い政治家人生だったことでしょう。扇さんの政治信条は「噓をつかないこと」でした。噓をつかない政治。しかし今の国会を見ていると噓つきに性差はないようで…。扇さんも天国で、気が気ではないのでは。