持病が転倒につながることがあります。注意が必要な病気は数多くありますが、代表的なものとして、3つお話ししましょう。
というのは、病気は大きく3つに分けられるからです。運動機能が衰える病気、感覚機能が衰える病気、そして認知機能が衰える病気です。これら3つに、それぞれ代表選手がいます。
運動機能が衰える病気の代表が、「パーキンソン病」です。
パーキンソン病は、日本で難病に指定されている神経変性疾患のひとつです。手足のふるえ(振戦)、動作が少なく遅くなる(無動)、筋肉がこわばり手足が動かしにくくなる(筋強剛)などの症状が現れ、転びやすくなります。
ヒトラーがパーキンソン病だったことがよく知られています。症状が進行すると安静時に手が震えるため、メガネを持つなど工夫していたというエピソードが伝えられています。ヒトラーが実際に転倒したという史料は見たことはありませんが、彼によって国家と時代は転覆しました。
次に、感覚機能が衰える病気の代表が、「糖尿病」です。糖尿病によって起きる糖尿病性神経障害をきたすと、脚の感覚が落ちます。太ももの筋肉も落ち、脚全体を把握する力も落ちて、転びやすくなるのです。
最後に認知機能が衰える病気の代表が、「認知症」です。リスクの高い場所や状況が把握しにくくなるので、転びやすくなります。転倒して骨折などの外傷を負い、入院・手術することで認知症が進行してしまうケースも少なくありません。
認知症高齢者の転倒は、現在深刻な問題となっていて、日本転倒予防学会でも、介護・福祉施設と協力して、さまざまな取り組みを続けています。
――と、ここまで病気の怖さを書いてきました。でも私が本当に伝えたいのは、ここからです。
「無病息災」がいいのは言うまでもありません。しかし、人間のからだは年を重ねるにつれていや応なく変化し、弱っていきます。それを受け入れることも、人生ではないでしょうか。私は、70歳を過ぎたら、「一病息災」でいいと思っています。自身の病気や弱いところを自覚し、注意し、いたわりながら過ごす。痛みを知る人は人に優しくなります。病気と付き合いながらも、できるだけその人らしく、また、人を思いやりながら生きられたら、いい人生ではないでしょうか。
無病息災の人は、自分は健康だと過信し、からだが発する信号に鈍感になることがあります。たまには自分のからだの声に、じっくりと耳を傾けてあげてください。