転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(16)~バスや電車は「進行方向」を向いて立とう 重心低く「ザ・ぺったんこ」の姿勢

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(16)~バスや電車は「進行方向」を向いて立とう 重心低く「ザ・ぺったんこ」の姿勢
予防・健康
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バスに乗ると「転倒にご注意ください」というアナウンスが流れます。とりもなおさず、バスや電車など、乗り物の中は転倒しやすいからです。

バスや電車で立つときは、つり革や手すりを持った上で、「進行方向を向いて」立ってください。

進行方向に対して横向きに立つ人が多いですが、この姿勢は、とっさの一歩が出にくいのです。股関節の横の筋肉は普段あまり使わないために、例えば急ブレーキなどがかかったときに、対処するための一歩が出ずに転倒し、大腿骨などの骨折につながることがあります。

対して、前後の一歩は、横の一歩よりは出やすい。ですから進行方向に向いて立つようにしてみましょう。

電車やバスの中の立ち姿勢を、私たちは「ザ・ぺったんこ」と呼んでいます。まず、進行方向を向いて、つり革や手すりにつかまります。やや重心を低くし、前傾気味の姿勢が基本です。からだが前に傾くほうが、急な揺れや停車などに、対応しやすいからです。

必要に応じて、足の指に力を入れてください。股関節・膝関節・足関節の周りの力は緩めて、揺れに柔軟に対応できるようにしておきます。

「ザ・ぺったんこ」の姿勢を取ることは、バランス訓練になりますが、席が空いているときはムリせず座りましょう。元気で余裕がある方だけ、たまには立って、「ザ・ぺったんこ」姿勢をとってみてください。

電車やバスの中で、リュックを下げている人をよく見かけるようになりました。

両手が使えるリュックは、転倒予防の観点からもおすすめです。ただし、荷物の入れ方には注意が必要です。重心が高いと前かがみになり、目線が下がります。前かがみになると、すり足チョコチョコ歩きになり、バランスも崩しやすいため、転倒につながります。リュックを背負うときは腰のあたりでしっかり支えられるように、やや下のほうに重心を持ってきてください。

最近、スーツにリュックを背負っている人は珍しくなくなりました。私の好きなドラマ「嫌われ監察官 音無一六」(テレビ東京・BSテレ東)でも、小日向文世さん演じる音無一六はスーツにリュックを背負っています。ひと昔前なら考えられなかったスタイルですが、パソコンを持ち運ぶようになったことも大きいのでしょう。

時代は変化するもの。転倒予防にも、自分の人生にも、新しいものや考え方を柔軟に取り入れていきたいと思っています。

イラスト・内山弘隆

「健活手帖」 2022-08-02 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。