突然ですが、「シェー」のポーズをご存じですか? 赤塚不二夫さんの傑作漫画『おそ松くん』に出てくるイヤミの、あの得意ポーズです。
実はこの「シェー」は、きわめて難易度の高い「究極の片足立ち」です。赤塚さんはこれをしばしば余興で実演されましたから、優れた脚力とバランス能力の持ち主だったと思われます。
「片足立ち」は、転倒予防にとって大きなポイントです。意識していない人が多いですが、「歩く」も「またぐ」も「昇って降りる」もすべて、片足立ちを基本とする動作だからです。私たちの日常生活は、片足立ちの繰り返しで成り立っているのです。
ですから、片足立ちがうまくできないようになると、転倒しやすくなる。脚力やバランス能力が弱ってくる高齢者にとって、片足立ちが長くなる動作には注意が必要です。
たとえばズボンを履くとき、靴下を脱ぐとき、そして浴槽をまたいでお湯に入るとき。浴室は床が濡れてすべりやすくなっていることも手伝って、転倒するリスクが高い。前回シリーズで書いた通り、浴室で高齢者が転倒して大ケガをする事例は大変多いです。
そこで今日は、バランス訓練の体操をご紹介します。愛称は「ザ・かかし」。かかしのように片足立ちをして、約30秒、その姿勢をキープするという体操です。
これは必ず、壁など、支えが近くにある場所で行ってください。転倒予防の訓練として片足立ちをやっている最中に、転倒したり骨折したりする高齢者の事故が起きています。無理して長時間やりすぎないことも重要です。
また、「ザ・かかし」は、目を開いて行ってください。腕の上げ方は自由です。手を腰に当ててもいい。足の上げ方も、折り曲げる必要はなく、自由です。
実は私には失敗談があります。来客があり、大学内のスポーツ施設を案内していたときのこと。施設の玄関で、床面に立ったまま、左右の靴をすり合わせて靴を脱ごうとしたら、片足立ちになった瞬間、あお向けにすべって、見事に転倒。幸い、後頭部を打ち付けることなくすみましたが、危ない体験でした。
その後、その施設の玄関の床面はすべりやすく、転倒者が続出していたことを知り、マットレスを敷き詰めて転倒予防対策を図りました。転倒予防を唱えている私も転ぶ。みなさんも、体操しているときを含め、「片足立ち」には十分お気をつけください。
イラスト・内山弘隆