転倒予防 Dr.ムトーの「転ばぬ教室」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(14)~私たちの日常生活は「片足立ち」の連続技「ザ・かかし」

Dr.ムトーの「転ばぬ教室」(14)~私たちの日常生活は「片足立ち」の連続技「ザ・かかし」
予防・健康
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突然ですが、「シェー」のポーズをご存じですか? 赤塚不二夫さんの傑作漫画『おそ松くん』に出てくるイヤミの、あの得意ポーズです。

実はこの「シェー」は、きわめて難易度の高い「究極の片足立ち」です。赤塚さんはこれをしばしば余興で実演されましたから、優れた脚力とバランス能力の持ち主だったと思われます。

「片足立ち」は、転倒予防にとって大きなポイントです。意識していない人が多いですが、「歩く」も「またぐ」も「昇って降りる」もすべて、片足立ちを基本とする動作だからです。私たちの日常生活は、片足立ちの繰り返しで成り立っているのです。

ですから、片足立ちがうまくできないようになると、転倒しやすくなる。脚力やバランス能力が弱ってくる高齢者にとって、片足立ちが長くなる動作には注意が必要です。

たとえばズボンを履くとき、靴下を脱ぐとき、そして浴槽をまたいでお湯に入るとき。浴室は床が濡れてすべりやすくなっていることも手伝って、転倒するリスクが高い。前回シリーズで書いた通り、浴室で高齢者が転倒して大ケガをする事例は大変多いです。

そこで今日は、バランス訓練の体操をご紹介します。愛称は「ザ・かかし」。かかしのように片足立ちをして、約30秒、その姿勢をキープするという体操です。

これは必ず、壁など、支えが近くにある場所で行ってください。転倒予防の訓練として片足立ちをやっている最中に、転倒したり骨折したりする高齢者の事故が起きています。無理して長時間やりすぎないことも重要です。

また、「ザ・かかし」は、目を開いて行ってください。腕の上げ方は自由です。手を腰に当ててもいい。足の上げ方も、折り曲げる必要はなく、自由です。

実は私には失敗談があります。来客があり、大学内のスポーツ施設を案内していたときのこと。施設の玄関で、床面に立ったまま、左右の靴をすり合わせて靴を脱ごうとしたら、片足立ちになった瞬間、あお向けにすべって、見事に転倒。幸い、後頭部を打ち付けることなくすみましたが、危ない体験でした。

その後、その施設の玄関の床面はすべりやすく、転倒者が続出していたことを知り、マットレスを敷き詰めて転倒予防対策を図りました。転倒予防を唱えている私も転ぶ。みなさんも、体操しているときを含め、「片足立ち」には十分お気をつけください。

イラスト・内山弘隆

「健活手帖」 2022-07-29 公開
監修者
医師、東大名誉教授
武藤 芳照
1950年生まれ。医師。75年名古屋大学医学部卒業。東京厚生年金病院整形外科医長、東京大学教育学部教授、同大学理事・副学長、日本体育大学保健医療学部教授などを歴任。日本転倒予防学会初代理事長、一般社団法人スポーツ・コンプライアンス教育振興機構代表理事。スポーツ医学、身体教育学等の著作は100冊を越える。現在、一般社団法人東京健康リハビリテーション総合研究所代表理事・所長。東京大学名誉教授。