コロナ禍で長きにわたってステイホームが呼びかけられ、テレワークが広がるなど、家で過ごす時間がすっかり増えました。実はこの「家の中」で、高齢者の転倒の多くは起きています。屋外よりも、居住場所での転倒のほうが多いのです(東京消防庁、2015~19年)。
では、家の中で転倒しやすい場所はどこか。ワースト5を順に挙げると、「浴室」「階段」「台所」「居間」「玄関」になります。
濡れた「浴室」が転倒しやすい場所であることは、第4回でもお話ししました。浴室にガラス戸がある場合は、転倒してガラスでケガをする恐れがあるのでさらに注意が必要です。
浴室の転倒で思い出すのがジャイアント馬場さんです。元々プロ野球選手で巨人軍の投手としても活躍しましたが、キャンプ中の宿舎の風呂場で転倒し、体ごとガラス戸に突っ込んで、左腕に大ケガをしました。これを機にプロレスラーに転向。つまり転倒がなければ、かの「16文キック」も生まれなかった。転倒は時に、人生を大きく変えるほどの転機になるということです。
以下、家の中の主な注意点を挙げます。
「階段」には、手すりをつけたり、足元を照らす照明をつけるなどの対策が有効です。
「台所」や「居間」は、足元をきれいに片付け、こまめに清掃することが大切です。野菜の切れ端、はねた水や油、読みかけの新聞や雑誌、チラシ、リモコン、脱いだ上着や取り込んだ洗濯物などが、つまずく、すべる、ぶつかるを引き起こす障害物となり得ます。
「居間」は、いちばん長い時間を過ごす場所だけに、転倒も多くなります。絨毯やマットの端に足が引っかかって転ぶケースも少なくありません。床にきちんと固定しましょう。
転びやすい場所とともに、転びやすい「タイミング」を意識することも大切です。
かつて東京消防庁の幹部からこんな話を聞きました。
ベテランの消防士でも転ぶことがあるというのです。それは火災を鎮火して、ケガ人がいたら救急車に乗せて、現場に静けさと安堵感が漂ったとき。そういうときに、はしご車の最後の一段を踏み外して転んだり、ホースにつまずいてケガをする例が少なくないということでした。
まさに『徒然草』の「高名の木登り」の話と共通しています。
人は緊張しているときは案外転ばないものです。緊張がゆるみ、ホッとした瞬間に油断が生まれ、転びやすい。階段も、最後の一段こそ、気を付けたいものです。