数多くの追悼記事に触れ、この方の偉大さを改めて感じています。以下の発言も胸に沁みました。
<音楽の大きなテーマは、亡くなった者、存在しなくなった者を懐かしむとか、思い出すとか、悼むとかいうことなんです。だから「葬儀」というのは人類普遍の大きなテーマですよね>(読書サイトじんぶん堂のインタビュー記事より)
戦争、テロ、原発問題……この国の、いや世界の悲しみや喪失感に常に寄り添い、音楽を創り出してくれた人でした。
音楽家・坂本龍一さんが3月28日、都内の病院で亡くなりました。享年71。昨年文芸誌『新潮』に発表された自伝「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」によれば、坂本さんは2014年に中咽頭がんが発覚。ニューヨークの病院で放射線治療を受けて寛解。その後、2020年6月に直腸がんと診断を受けます。この時もニューヨークで放射線治療を受けましたが、同年秋に日本の病院で人間ドックを受けた際、肝臓やリンパ節に転移が見つかり「何もしなければ余命半年」と言われました。その後2年間で計6回手術を受け、がんと共存しながら音楽活動を続けられたことには頭が下がります。
ただ、ここ半年間の闘病は壮絶で、亡くなる1、2日前にご家族や医師に「辛い。もう逝かせてくれ」と頼み込んでいたという報道もあり、ファンの方は胸を痛めたことでしょう。「終末期の患者さんから、もう逝かせてほしいと言われたらどうするのですか?」と複数の人から質問をされたので、そのことについて少し書きます。
40年間の医者生活の中で、患者さんから「もう逝かせてほしい」と言われたことは百回以上ありました。医者として、どう対応したのか? それはもう百人百様、ケース・バイ・ケースです、としか言えませんが、まずはその人の痛みが、身体的なものと精神的なものの、どちらのウエイトが高いのかを見極めるところから始めます。
身体的痛みが強ければ、モルヒネなどオピオイド(麻薬性鎮痛薬)の増量で対応します。精神的痛みが強ければ、ひたすら患者さんの言葉を傾聴します。眠れないのであれば、睡眠薬の内服や鎮静剤の注射によって、少し眠ってもらうこともあります。いたたまれない辛さは不眠が要因になっている場合もあるのです。それでもどうしても耐えがたい苦しみが続くという場合、ご家族、ご本人と話し合い(これを人生会議といいます)、持続的な鎮静を行うこともごく稀にあります。
坂本さんがどのような最期だったか詳細はわかりませんが、きっとそこには音楽があったはず。
音楽は時にどんな薬よりも人々を癒やしてくれるのだと坂本さんは教えてくれたように思います。