肥満 肥満症で死にたくない

肥満症で死にたくない①~BMI値30以上は狭心症から心筋梗塞の危機、侮れない「内臓脂肪型」

肥満症で死にたくない①~BMI値30以上は狭心症から心筋梗塞の危機、侮れない「内臓脂肪型」
病気・治療
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コロナ禍の在宅勤務などで肥満になった人が激増している。肥満は健康的な肥満と、病気を合併する肥満(肥満症)に分類されるのは意外と知られていない。危険な肥満症で死に近づかないために、専門家や医師による徹底解説をお届けする。

肥満体形であっても、大きな病気とは無縁と思っている人は少なくない。山形市の会社員、藤田次郎さん(60代・仮名)もその1人。身長175センチ、体重96キロ。体重÷身長の2乗で算出されるのがBMI(体格指数)は31.35だ。高血圧症の診断を受けており、普段の移動は車が多く、運動の習慣はない。

「この数値は、極めて危険です」と警告するのは、琉球大学大学院医学研究科の益崎裕章教授。「日本人やアジア人の基準は25を超えたら肥満と診断されます。BMIが30を超えるのは日本では約1%と少ない。問題は健康な肥満タイプなのか、病気を合併する肥満タイプなのかが大切になってきます」と話す。

益崎教授は世界肥満デーの3月4日、都内で肥満予防のヒントをテーマに講演した。会場で取材に応じ、「健康な肥満タイプは主に皮下脂肪型で、相撲取りなどもこれに含まれます。もう一つの内臓脂肪型は病気を合併することが多く、肥満関連の病気を伴えば肥満症と診断されます」と続けた。その違いを簡単に見分ける方法がある。

「ぽっこりおなかが出ている肥満体形の人で、自分のおなかの肉をつかめる人は皮下脂肪型です。つかめずにすっと手が抜けてしまう人は内臓脂肪型と思っていいでしょう」

内臓脂肪型肥満はなぜ、危険な病気につながるのだろうか。

「内臓脂肪が蓄積されると、血管を守る“守護神”として脂肪組織から放出される生理活性物質、アディポネクチンの血中濃度が大幅に減少し、心臓に血液を供給する冠動脈が詰まりやすくなることが判明しています。心筋梗塞を起こしやすくなります。脳の血管で動脈硬化が進むと、脳梗塞などを引き起こすリスクが高まります」

藤田さんは肥満体形でも病気とは関係ないと思っていたが、ここにきて胸が痛むという症状が出て、「もしや大きな病気の予兆では」と不安に。地元のクリニックを受診したところ、狭心症の可能性を指摘された。医師からはホルター心電計という24時間の心電図波形を記録する機器を渡され、自宅で寝ている間を含めて計測した。

「ホルター心電計では、胸の痛みや動悸の原因となる狭心症や不整脈の有無を調べます。もし、この検査で異常が見つかれば、次は心臓のCT検査などに移ります」

胸の痛みが狭心症ならば、冠動脈の狭窄(きょうさく)で心筋梗塞に発展する恐れがある。

心筋梗塞では、ミシュランガイドに掲載された人気ラーメン店「ののくら」店主、白岩蔵人さんが今年2月に亡くなった。心筋梗塞を含む心疾患は日本人の死因でがんに次ぐ第2位である。

狭心症と診断されれば、藤田さんは今後、カテーテルによる血管内治療も予想される。「胸の痛みの原因は何なのか。肥満を放置してきたのは自業自得とも思うが、診断結果が心配です」とうなだれた。

 

<上写真>
内臓の周りの膜などにつく内臓脂肪。蓄積されると危険な症状に(益崎教授の資料を基に作成)

「健活手帖」 2023-03-14 公開
解説
医学博士
益崎 裕章
1989年、京都大学医学部卒。米ハーバード大学医学部招聘博士研究員・客員助教授などを経て2009年、琉球大学大学院医学研究科内分泌代謝・血液・膠原病内科学講座(第二内科)教授に就任。医学博士。日本肥満学会常務理事。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。