加齢にともない一般的に「足腰が弱くなる」といわれる。骨ももろくなり、転倒骨折を起こしやすい。このような状態のときに、めまいも起こりやすくなるという。
「めまいの原因で最も多い良性発作性頭位めまい症は、骨粗鬆(こつそしょう)症との関係が深いのです」
こう話す聖マリアンナ医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科の肥塚泉特任教授は、めまいの診断・治療・研究を長年行い、新たな診断法や治療法も開発。めまい治療の第一人者である。
「良性発作性頭位めまい症は、平衡感覚をつかさどる三半規管に、耳石という炭酸カルシウムの結晶が、耳石器からはがれて紛れ込んだ結果、めまいが起こります。この耳石が、骨粗鬆症でもろくなり、はがれやすくなると考えられているのです」
骨は破壊と形成を繰り返すことで丈夫な骨を維持している。女性の場合は、閉経後の女性ホルモン(エストロゲン)の急激な減少で、骨の形成に関わる細胞(骨芽細胞)の働きが低下し、骨がもろくなる。同時に、炭酸カルシウムで成り立っている耳石も、骨と同様にもろくなってしまうのだ。
「健康な人の耳石は、形も大きくきれいに並んでいます。が、骨粗鬆症の方の耳石は、形が小さくなって形もバラバラ。はがれやすくなっているのです。三半規管にはがれた耳石が入り込むとめまいが起こります」
少量の耳石がはがれて三半規管に紛れ込んでも、寝返りを打ったときなどに、自然に排出できる仕組みがある。しかし、骨粗鬆症でたくさんの耳石のかけらが三半規管に紛れ込むと、自然に排出するのが難しい。加えて、運動不足で体を動かさないでいると、三半規管にたまった耳石のかけらが集まってかたまりとなる。それが、頭を上に向けたときなどに三半規管内を移動して、誤った平衡感覚の情報を伝えるようになり、めまいにつながるのだ。
全世界で共通していますが、40~70代の良性発作性頭位めまい症の患者さんは、男性に対して女性は4~5倍も多いのです」
良性発作性頭位めまい症を防ぐには、運動習慣を維持し、骨を強化するためのカルシウムやビタミンDなどの栄養素を含む食材を意識して食べるのがコツ。牛乳や魚、キノコ類など、バランスよく取り入れて食べよう。それでも、めまいが起こったら医療機関へ。
「良性発作性頭位めまい症であれば、耳石置換法と呼ばれる一種の理学療法で治すことが可能です。しかし、耳のめまいで最も多い良性発作性頭位めまい症は、知名度のあるメニエール病と誤診されることもあります。メニエール病に対しては、薬物治療が主体となりますので注意が必要です」
耳石がはがれて三半規管に入る要因
□女性ホルモン(エストロゲン)の低下による骨粗鬆症
□運動不足で、頭や体を動かす機会が少ない
□寝返りを打ちづらい寝具
□頭を打つような事故
□マッサージ器による振動
※肥塚泉監修『図解 専門医が教える!めまい・メニエール病を自分で治す正しい知識と最新療法』(日本書院本社刊)から