ようやく長尾先生の念願かないましたね…最近、そんなふうに声をかけられます。何のことかといえば、新型コロナの感染症法の位置付けが2023年5月8日から「5類」になるという話。
僕はおそらく日本で最初に新型コロナを「2類相当」から「5類」に変更せよと提言した医者です。2020年の春からです。だから良かったですねといわれたところでうれしくない。やっと今? 遅すぎる。もはや「5類」でもないよ、という感想しかありません。そして、2類とか5類に関係なくコロナ前の暮らしを早く取り戻そうと考える医療者もようやく増えてきました。
ほんの1年ほど前まで、家族さえ最期に立ち会えないなど非情なルールを設けている病院がありましたが、今は少しずつ立ち会えるように(在宅でのお看取りではこんなルールはありません。あくまで病院の話)。この人の訃報の記事を読み、あらためてそんな感想を持ちました。
■心の準備できない「突然死」
落語家でテレビ番組でも長年活躍されていた笑福亭笑瓶さんが2月22日に亡くなりました。享年66。死因は急性大動脈解離との発表です。笑瓶さんは2015年12月にもゴルフ中に大動脈解離を発症しドクターヘリで緊急搬送。奇跡的に一命を取り留めていました。しかし今回、奇跡は起きてくれなかった。
寒い季節、急激な気温の変化によるヒートショックで急性大動脈解離など、心臓突然死で亡くなる人は多いです。しかし今年は異常に多い。50代、40代でも突然死された人の話をよく聞きます。たとえば2月25日の読売新聞オンラインには「再開の市民マラソン、ランナーの心肺停止相次ぐ」という記事がありました。
おそらくご本人は、死の予兆を感じぬままに旅立っていることでしょう。身体的苦痛も長くは続いていないはず。しかし家族や知人が心の準備が全くできないのが、突然死というもの。せめてもの救いは先に述べたように、ようやくここに来て最期のお別れが病院でも徐々に再開されるようになったこと。
■大好きな師匠と「最期のお別れ」
師匠の笑福亭鶴瓶さんが、こんなふうにお話しされていました。
「最期、本人に会えたからね。意識はなかったけど、体はまだ温かかった。死んだことは分かってないと思うけど、僕が来たことは感じ取るものはあったと思う」。さすがは鶴瓶さんです。
人間のもつ五感のうち、最期まで保たれるのが聴覚であることが分かっています。リモートではなく直接会って、最後のぬくもりに触れて声をかけてあげたい…笑瓶さんが大好きな人と直接触れ合えて旅立たれたことに少しだけ安堵(あんど)しています。