手の痛みやしびれは、手の指の関節や骨、骨と骨をつなぐ靱帯、骨と筋肉をつなぐ腱やそれをサポートする腱鞘(けんしょう)が関わっている。このため、料理人やマッサージ師など手を酷使する職業の人は手のトラブルに見舞われやすい。一方、40代以降の女性も、ホルモンバランスの変動などからリスクが高いことがわかっている。では、手を守るのにはどうすればよいのか。
「手を酷使している人は、当然のことながら、痛みが生じたら安静にして手を休めることが重要です。痛みを放置せず、整形外科で適切な治療を受けましょう。加えて、女性やご高齢の方は、骨粗鬆(こつそしょう)症の予防を意識していただきたいと思います」
こう話すのは、NTT東日本関東病院整形外科の高本康史医長。手外科で有名な米国のクライナートハンドセンターに臨床留学し、さまざまな高度な技術を習得。帰国後、手の痛みなどに悩む数多くの患者を救っている。
「特に女性は、50代以降、骨折に見舞われやすい。まず手首の『橈骨遠位端骨折』(とうこつえんいたんこっせつ)をして、60代以降は尻もちをついて脚の付け根の『大腿骨近位部骨折』(だいたいこつきんいぶこっせつ)や『腰椎圧迫骨折』を受傷するというのが典型的なパターンです」
骨粗鬆症は、骨密度が減少して骨がもろくなる。女性は、閉経後の女性ホルモンの急激な減少で骨粗鬆症になりやすい。健康で若く骨が丈夫な人がちょっと手を地面についても平気なレベルの衝撃でも、骨粗鬆症の人の手首は簡単に折れてしまう。
「骨折した手首の骨は手術すれば治ります。しかし、骨粗鬆症を治すのは難しい。しかも放置すると、先述した骨折の連鎖が起こります」
ポイントは骨密度だ。
「骨密度が低いといわれた方は、骨粗鬆症の治療を受けましょう。骨粗鬆症の治療薬は骨の質を高め、治療を受けていない人と比べて、骨折のリスクを約半分に減らすことができます」
同時に、カルシウムを含む食品をとるなど食生活の見直しやウオーキングなどの運動習慣も欠かせない。
「転びやすいのは、ロコモティブシンドローム(通称・ロコモ)とも関連しています。それを防ぐためにも、運動習慣は不可欠です」
ロコモは、痛みや筋力低下などの運動器障害によって、立つ・歩くといった移動機能の低下をきたした状態のこと。これにより日常生活や外出が制限され、活動量が減少してさらに身体機能が低下するという悪循環で、健康寿命にも影響する。
「手を守ることを意識して異変は放置しないことに加え、全身の健康も維持していただきたいと思います」と高本医長はアドバイスする。
手を守る心掛け
□スマートフォンの操作など、指を酷使する動作を長時間続けない
□仕事で指をよく使う人は、ストレッチをこまめに行う
□骨の強化と転倒防止のため、日頃から運動習慣を維持する
□健康診断で骨密度が低下していたら、骨粗鬆症の精密検査と治療を受ける
□手の痛みやしびれ(他の部位の症状を伴わない)を感じたら、日本手外科学会のサイト(「日本手外科学会」で検索)で自宅近くの認定手外科専門医を探し受診する