ドアノブを開けようとしたり、タオルを絞ったり、何かをつまんで力を入れると親指のつけ根が痛む。スマートフォンを親指で操作しようとすると鈍痛まで走る。このような症状を引き起こす代表的な病気が「母指CM関節症」である。親指の根元の関節が変形する。
「指の変形性関節症(関節が変形する病気)の中でも、母指CM関節症の患者さんは全国に少なくとも約270万人いると推計されています。60代の方は、軽症も含めておよそ半数が母指CM関節症になっていると考えられています」
こう説明するのは、NTT東日本関東病院整形外科高本康史医長。日本手外科学会の専門医であり、数多くの患者を診ている。
母指CM関節症は、親指(母指)の指先から3番目の骨(中手骨/ちゅうしゅこつ)と4番目の骨(大菱形骨/だいりょうけいこつ)の間の関節(CM関節)が変性し、骨同士がぶつかり合って痛みが生じる。この状態が続くと、骨が変形して出っ張るので、見た目にもわかる。原因のひとつは親指の使い過ぎだ。
「何かをつまむ、あるいは、母指で押す動作で、指先にかかる負荷が『1』とすると、母指CM関節には13~14倍の負荷になります。大きな負荷がかかり続けるうちに、年齢とともに骨と骨の間でクッションの役割を果たす軟骨が摩耗し、骨同士がぶつかるようになるのです」
軟骨が摩耗して骨同士がぶつかると、母指CM関節を支える16本もの小さな靱帯も緩むという。その結果、母指CM関節は変形していく。痛みだけでなく、炎症によって腫れて熱を帯びることもある。
「母指CM関節症には、保存療法から手術まで治療法があります(別項)。骨の変形が進む前に、早めに医療機関を受診することが大切です。また、女性の場合は閉経後の女性ホルモンの急激な減少で、骨粗鬆(こつそしょう)症を起こしやすくなります。骨折も起こしやすくなるので、注意しましょう」
たとえば、つまずいて転びそうになったときに、無意識のうちに手が出て手のひらを地面につくことはあるだろう。この行為で骨粗鬆症の人は骨折するという。
折れる骨は手のひらではなく手首。「橈骨遠位端骨折(とうこつえんいたんこっせつ)」といって、手首が骨折でフォークのように変形し、腫れて手先に力が入らなくなる。
「橈骨遠位端骨折に対しては、骨折した骨の位置を戻して固定する手術を行いますが、当院では毎週のように手術するほど患者さんが多い。骨粗鬆症の発見と予防にぜひ取り組んでいただきたいと思います」
健康診断の検査で骨密度が低いときには、自宅近くの整形外科へ。もちろん、手の異変を感じたときにも早めに対処することが肝心だ。
母指CM関節症の治療法
□固定装具をつけて関節への負荷を軽減する(固定装具は夜間だけでも効果がある)
□適宜、消炎鎮痛薬などの内服を行う
□ステロイドの関節内注射などを行う
□手術の「関節形成術」では、変形した骨の一部を除き、腱などで関節を安定化させる
□手術の「関節固定術」は、変形した骨同士を金属などで固定してつなげる
※症状や進行度により適応が異なるため主治医とよく相談を