がん 医師・名医 「かかりつけ医」が見つけた“重大な異変”

「かかりつけ医」が見つけた“重大な異変”①~脂質異常の検査過程で腎臓がんを早期発見

「かかりつけ医」が見つけた“重大な異変”①~脂質異常の検査過程で腎臓がんを早期発見
病気・治療
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診察や検査で、別の思わぬ病気が見つかることがある。その変化に気づきやすいのは長年、同じ患者を診続けている「かかりつけ医」だ。がんや心臓病のような大きな病気を早期発見できて命が助かった人、反対に発見が遅れて後悔している人…。明暗を分けた実例を紹介する。

東京都に住む鈴木彦一さん(80代・仮名)は、かかりつけ医の診察・検査で、別の病気が見つかったケースだ。

軽度の脂質異常症があり、脂質低下療法を行うかどうか検討するため、胸腹部CT検査と頸動脈エコー検査を受けた。

その結果はどうだったか。汐留シティセンターセントラルクリニック(東京都港区)で非常勤として“かかりつけ医”の役割も果たしている東丸貴信医師が語る。

「心臓の冠動脈石灰化はなく、数年前のCTに比べて全身の大動脈や末梢動脈の硬石灰化も変化はみられず、頸動脈硬化も軽度でした。ただし、右腎臓に3センチ径の腫瘤(しゅりゅう)が見つかったのです」

定期的に同じ患者を診ることが多いかかりつけ医は、患者の変化に気づきやすい。場合によっては重篤な病気の可能性を見つけ、専門病院に患者を紹介する役目を担う。東丸医師のような医学部教授などを歴任した経歴の持ち主がかかりつけ医としても活躍しているのは、患者としては心強い。東丸医師は「もしかしたら」と鈴木さんを大学病院の泌尿器科に紹介した。精密検査を受けると、その腫瘤は、腎臓がんと診断された。

鈴木さんは「まさか腎臓がんが見つかるなんて…」と落胆した。ただ、幸いにも、他の臓器への遠隔転移はなかった。80代の高齢だが体力的にも手術を受けられると判断され、近く右腎臓の腎摘出術を受ける予定だ。

田代信夫さん(70代・仮名)は65歳で退職後、人間ドックを受診しなくなっていた。2020年6月ごろから咳が出始め、東丸医師は胸部エックス線検査を行ったが、肺炎や異常陰影は認められなかった。上気道炎として、咳止めや総合感冒薬の服薬で症状は軽減傾向にあった。この時は大きな病気が潜んでいることは分からなかった。

同年8月に定期受診が予定されていたが、その前に人間ドックを受けることを東丸医師から勧められた。その結果、肺に1.5センチの結節(けっせつ)が認められた。肺炎はなく、上気道炎とは無関係であった。東丸医師は総合病院の呼吸器内科に紹介した。精密精査の結果、肺がんと診断された。田代さんは「咳の原因が、がんだったなんて」と驚いた。手術適用となったのは不幸中の幸いだった。肺の部分切除となった。

鈴木さんや田代さんのもともとの持病は脂質異常症や高血圧症などだ。それを定期的にケアしていたおかげで、がんが早期発見された。がんは早期発見されるかどうかで予後に天と地のほどの差が出る。早期発見の多くのケースは手術可能となり、がんを切除できる。大半の患者は手術と診断されると尻込みするが、がんに限っては「手術可能」はいい知らせ。田代さんは遠隔転移もなく、術後の体調は良好という。

一方、昨年11月、前立腺がんで亡くなった永井久吉さん(70代・仮名)は5年ほど前、最初にがんと診断された時に、すでに周辺の骨などへの遠隔転移があり、ステージ4の診断だった。妻が振り返る。

「転移があったので手術も受けられず、抗がん剤が中心で、最後の方は自宅に戻りましたが、食べ物も喉に通らず衰弱して亡くなりました」

日頃、かかりつけ医を受診する機会があれば、がんを早期発見できたかもしれない。紙一重の差がここにある。

「健活手帖」 2023-02-07 公開
解説
医師、平成横浜病院
東丸 貴信
1978年、東京大学医学部を卒業。日赤医療センター循環器部長、東邦大学医学部教授を経て、2017年から平成横浜病院総合健診センター長。汐留シティセンターセントラルクリニックでは非常勤で診察。東邦大学医学部名誉教授。
執筆者
医療ライター
佐々木 正志郎
医療ライター。大手新聞社で約30年間、取材活動に従事して2021年に独立。主な取材対象はがん、生活習慣病、メンタルヘルス、歯科。大学病院の医師から、かかりつけ医まで幅広い取材網を構築し、読者の病気を救う最新情報を発信している。医療系大学院修士課程修了。