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冬の高血圧対策(4)~心臓を守ってフレイルも予防、慢性心不全にはACE阻害薬を活用

冬の高血圧対策(4)~心臓を守ってフレイルも予防、慢性心不全にはACE阻害薬を活用
病気・治療
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病院の血圧測定結果で血圧が高いと、「深呼吸した後にもう一度測りましょう」といわれることがある。その通りにすると2回目は正常値。このように、血圧はちょっとしたことで変動する。だが「いつも血圧が高い状態」はよくない。

「高血圧は動脈硬化を進めて、心筋梗塞や脳卒中のリスクを上げることは一般的によく知られています。しかし、高血圧の状態が長く続くことで、慢性的な心不全に陥ることはあまり知られていません。心臓を守っていただきたいのです」

こう話す東京都健康長寿医療センターの原田和昌副院長は、循環器専門医として、高血圧患者やそれに伴う心不全などの心臓病の患者を数多く診ている。

「高血圧は心臓に負荷をかけます。また、大動脈が動脈硬化になると、心臓の大動脈弁も悪くなります。それらが合わさることで心臓の機能が徐々に低下し、慢性的な心不全になるのです」

心不全とは、心臓の機能が低下した状態。それが慢性的に続いているのが、慢性の心不全だ。心臓は、収縮・拡張のポンプ機能で血液を大動脈へ送り出している。

高血圧では、強く収縮しないと血液を送りだせないため、ポンプ機能に負荷がかかる。さらに、心臓から大動脈に送り出した血液が逆流しないように、開閉している大動脈弁も変性し、弁の開閉が上手くいかなくなって血液を少ししか送り出せない。弁がきちんと閉じなければ血液は心臓へ逆流し、やはり送り出す血液量は減少する。

いずれにしても、慢性の心不全状態となり、全身への血液供給量が減るため、「疲れやすい」「息切れがする」などの症状を引き起こす。

「慢性の心不全になると、身体活動能力が落ちます。それがフレイル(心身の虚弱)につながるのです。フレイルになれば、心臓の機能もさらに悪くなるといった悪循環に陥ります」

心臓の機能が低下して血液量が減少すると、細胞に必要な酸素の供給量も減少。最大酸素摂取量が下がるので細胞の代謝が落ち、筋肉量も減っていく。それがフレイルを後押しするのだ。

「高血圧に伴う心臓病を防ぐことが、フレイル予防につながります。降圧薬のひとつACE(エース)阻害薬は、慢性心不全の薬として承認され保険適用になっています」

ACE阻害薬の心不全に対する薬の開発のきっかけは、長期に服用している高血圧患者で、心不全の改善が見られたからだ。つまり、高血圧を改善し、正常な血圧にコントロールできれば、自然に心不全やフレイル予防にもつながる。

「降圧薬も上手く活用しながら、食生活を見直して高血圧改善を心掛けていただきたいと思います」と原田副院長は語る。

高血圧⇄心不全⇄フレイルの関係

高血圧の状態が続くと、慢性の心臓機能の低下(心不全)のリスクが高くなる。慢性の心不全になるとナトリウムや水分が出せないため急な血圧上昇が起こりやすいといった悪循環に陥る。加えて、慢性の心不全になるとフレイル(心身の虚弱)にもつながりやすい。

気力も体力も低下するため、慢性の心不全、高血圧と動脈硬化がさらに進み、フレイルも促進される。このような状態を避けるには、食生活を見直して高血圧の改善を心掛けることが肝心だ。

「健活手帖」 2023-01-14 公開
解説
医師、医学博士
原田 和昌
東京都健康長寿医療センター副院長。医学博士。東京大学医学部卒。ハーバード大学、東京大学医学部循環器内科などを経て2012年から現職。専門は心不全、冠動脈疾患、高血圧。高齢者の心臓病や高血圧の診療・研究を数多く行っている。
執筆者
医療ジャーナリスト
安達 純子
医療ジャーナリスト。医学ジャーナリスト協会会員。東京都生まれ。大手企業からフリーランスの記者に転身。人体の仕組みや病気は未だに解明されていないことが多く、医療や最先端研究などについて長年、取材・執筆活動を行っている。科学的根拠に基づく研究成果の取材をもとに、エイジングケアや健康寿命延伸に関する記事も数多く手掛けている。