近年、耳にすることの増えた「発達障害」という言葉。この言葉は一つの疾患を指すわけではなく、自閉症スペクトラム障害(ASD)や注意欠如/多動性障害(ADHD)のなどの総称だ。多くは先天的に脳のさまざまな機能の発達に障害があることから、社会生活、とくにコミュニケーションをとる場面において支障を来たすことが多いとされる。
発達障害とは
しかし、こうした“症状”は、場面や対応する人によって感じ方は異なる。そのため診断も難しく、「グレーゾーン」という表現を使われることが珍しくない。そのグレーゾーンの人を部下に持つ上司は、対応を考えなくてはいかない。
『発達障害グレーゾーンの部下たち』の紹介

そこで参考にしたい1冊が『発達障害グレーゾーンの部下たち』(SB新書、1045円)だ。著者の舟木彩乃さん=写真=は、約1万人の相談に対応し、中央官庁や地方自治体のメンタルヘルス対策に携わる、公認心理師や精神保健福祉士の資格も持つストレスマネジメントの専門家である。
本書の内容と構成
本書では、発達障害とはどんな疾患なのか、という基本的な解説から始まり、「グレーゾーン」の特徴、職場で起こりうること、そしてグレーゾーンの部下とのコミュニケーションの取り方やサポート法などを実例を交えて紹介している。
グレーゾーンの部下への接し方
もし部下に発達障害グレーゾーンと思われる人物がいたとき、上司はどう接したらいいのか。本書にはグレーゾーンの事例が豊富に紹介されているが、それを元に「グレーゾーンだ」と決め付けるのは危険だ。著者が勧めるのは「困りごと」を共有すること。発達障害という言葉をいったん横に置いて、上司として困っていることと、部下がどんなことで困っているのかを提示し合うことで、解決策が見つかりやすくなるという。
発達障害を「能力の凹凸」と捉える
また発達障害をネガティブに捉えるのではなく、「能力の凹凸」と考えることで、能力を有効に生かせることもあるという。突出した行動力や集中力を持つ代わりにコミュニケーション能力に劣るような人は少なくない。つまり凸と凹がハッキリし過ぎているだけであって、凸の部分を生かすことができれば、会社や組織にとってのメリットにつながる—という考え方だ。
グレーゾーンの対応と職場の理解
「グレーゾーンは、周りが理解に苦しむ言動も多く、それがハラスメントにつながりかねません。本書を読み進めていただくと『もしかしたら自分も』ということに気付くかも知れません。職場でお互いの理解が深まり、全体の理解が醸成されることを願います」と舟木さんは語る。
上司としての対応
上司にこのタイプの人物がいる場合の対応についても言及されている。発達障害もそのグレーゾーンも、遠ざけるのではなく、正しい対応を知ることが重要なのだ。
発達障害グレーゾーンに見られる特性
- こだわりが強く、自分の中で決めた手順を踏まないと仕事ができない
- 注意力散漫でケアレスミスが多い
- 人の話を最後まで聞かず、自分の話したいことを話す
- 表情や身ぶりから相手の気持ちを酌み取れない
- 複数の業務を同時に取り組むことができない
- 優先順位が付けられず、自分がやりたい業務を優先させてしまう