胃がんや食道がんに対し、2024年8月、免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢(そう)移植併用療法の臨床試験がスタートした。患者の腸内フローラをリセットして新しいものに入れ替えることで、免疫の働きが向上し、免疫チェックポイント阻害薬の効果も上がるのではないかと期待されている。
新しい治療法の可能性
「胃がんに対しては、がんの増殖に関わるHER2(タンパク質の一種)が陽性の場合に使用できる分子標的薬が、11年に承認されました。切除不能進行・再発胃がんでは、免疫チェックポイント阻害薬もありますが、有効な薬が少ないのが現状です」
現状の課題と新たなアプローチ
こう話すのは、国立がん研究センター中央病院消化管内科・先端医療科の庄司広和医長。先の臨床研究の代表者で、日本臨床腫瘍研究グループ胃がんグループの代表委員を務め、新しい治療法の開発や臨床試験にも積極的に取り組んでいる。
腸内フローラとがん治療の関連
「腸内フローラの状態によって薬が効きやすい人、薬が効きにくい人が明確になれば、ひとつの指標になるでしょう。私自身は、次世代型『がん精密医療』の実現を目指しています」
がん精密医療の実現
がん精密医療とは、がんの遺伝子変異を把握(がん遺伝子パネル検査)し、それに合わせて使用する薬を変えるなど個別化医療を行うことである。生まれ持った遺伝子変異だけでなく、後天的に生じたがんの遺伝子変異によって薬の効果が異なる。
遺伝子変異に合わせた薬の使用、あるいは、新たな薬の臨床試験をがん治療では行っている。しかし、遺伝子変異に合わせた薬のマッチングは、胃がんや食道がんの場合、決して多いとはいえない。
新たな薬の組み合わせによる効果
「私たちはがんの遺伝子ではなく、がん細胞に発現するタンパク質のリン酸化反応(リン酸化シグナル)によって、治療効果に変化があることを突き止めました。新たな薬の組み合わせによる治療の効果についても確かめています」
リン酸化シグナルによる新しい治療法
リン酸化シグナルは、医薬基盤・健康・栄養研究所 創薬デザイン研究センター創薬標的プロテオミクスプロジェクトの足立淳副センター長らの協力を得て、庄司医長が取り組む研究だ。
リン酸化シグナルは、がんの増殖や転移、がん細胞の死などに重要な役割を担い、胃がんの細胞によって、タイプを3つにわけることができる。中でも既存の治療薬が効きにくく転移を起こしやすいタイプに対し、新たな薬の組み合わせによって効果が得られることを庄司医長らは24年10月に研究報告した。
リン酸化シグナル研究の展望
「リン酸化シグナルの研究が進むと、これまで切除不能・再発胃がんで治療薬に効果が乏しかった人も、予後を改善するチャンスが得られる可能性があります」
がん治療の進歩と早期発見の重要性
リン酸化シグナルのタイプ別医療、腸内フローラのリセットなど、医療は進歩している。しかし、早期発見・早期治療に越したことはない。
「がん検診を受けて異常が見つかった場合は、早く診断・治療を受けてください」と庄司医長は語気を強めた。