胃や食道の進行がんでは、肺がんなどと比べて効果的な薬の種類が限られている。この状況を一変させたのが、2017年に承認された免疫チェックポイント阻害薬だ。免疫の働きを抑えるがん細胞の仕組みを解除し、免疫ががん細胞を攻撃できるようにする免疫チェックポイント阻害薬によって予後が改善した人が増えた。
免疫チェックポイント阻害薬の効果
「免疫チェックポイント阻害薬は、効果が得やすい人とそうでない人が、胃がんや食道がんでもいます。効果が得られない場合、他の薬による治療の選択肢は非常に限られます。この状況を少しでも変えたいのです」と話すのは、国立がん研究センター中央病院消化管内科・先端医療科の庄司広和医長。2024年8月、胃がんと食道がんに対する免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢(そう)移植併用療法の臨床試験をスタートさせた。
腸内細菌叢移植療法の可能性
腸内細菌叢移植療法は、順天堂大学とメタジェンセラピューティクスがすでに臨床応用している治療法だ。腸内フローラをリセットし、新しい腸内フローラに変えることで、免疫の働きを良い方向に導く作用が期待できる。
腸内フローラの影響と免疫チェックポイント阻害薬
「免疫チェックポイント阻害薬が効果的でない人は、免疫もしくは免疫チェックポイントに、何かしら原因があるのかもしれません。腸内フローラを新しく入れ替えることで、免疫チェックポイント阻害薬の効果が上がったことは、海外の腎がんの研究で報告されています。胃がんや食道がんでも、効果が上がることを期待したいと思います」
免疫チェックポイントの仕組み
免疫チェックポイントとは、細胞を攻撃しないように働くタンパク質のこと。代表格は、がん細胞を攻撃するT細胞(免疫細胞の一種)の表面に発現するPD—1だ。がん細胞の表面に現れるPD—L1というタンパク質が、T細胞のPD—1にくっつくと、T細胞はがん細胞を攻撃しなくなる。それを防ぐのが「オプジーボ」などの免疫チェックポイント阻害薬だ。
免疫チェックポイント阻害薬の限界と課題
PD—L1がくっつくのを防ぎ、T細胞に攻撃体制を蘇らせてがん細胞を攻撃できるようにする。そのため、自分の免疫でがん細胞を封じ込めることが、免疫チェックポイント阻害薬で可能になるはずだった。しかし、胃がんの遠隔転移したステージ4の進行がんや、再発がんでは、生存期間中央値が12カ月から17カ月になったに過ぎない。
免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植療法の併用
「免疫チェックポイント阻害薬が効果的に作用すれば、生存期間を延ばす人は多くなります。免疫チェックポイント阻害薬と腸内細菌叢移植併用療法の安全性を確かめた上で、効果が上がるかどうか確かめたい。腸内フローラによって、効果が左右するかどうかも研究で解明できれば、免疫チェックポイント阻害薬をより効果的に使用できるようになると思います」と庄司医長は話す。
腸内フローラ改善で、胃がん・食道がんの治療が変わるかもしれない。