腸内フローラ(腸内細菌叢=そう)をリセットして新たなものに入れ替え、免疫チェックポイント阻害薬や分子標的薬の効果を高めるための研究が、2024年8月、胃がんと食道がんでスタートした。
胃がんといえば、がん死因の男性で第3位、女性で第5位。胃がんになる人も男女ともに第4位で、原因となるピロリ菌の除菌が進んでいるものの、患者数は依然として多い。
胃がんの現状と治療
「胃がんが限局にとどまる早期段階なら、内視鏡的な治療で済み、5年生存率は約97%です。進行がんや再発がんになると治療薬の効果は限られ、予後は厳しくなるといわざるをえません」と指摘するのは、国立がん研究センター中央病院消化管内科・先端医療科の庄司広和医長。日本臨床腫瘍研究グループ胃がんグループの代表委員を務め、新しい治療法の開発に尽力している。
新しい治療法の進展
「11年に、がんが増殖しやすい遺伝子HER2陽性に対する分子標的薬が承認され、17年の免疫チェックポイント阻害薬の登場で、進行がんのステージ4や再発に対する治療効果は上がりました。しかし、まだ十分とはいえない状態です」
胃がんのステージ4や再発がんの場合、標準治療は免疫チェックポイント阻害薬と全身化学療法の組み合わせで、1次~3次までの3段階の治療法がある。一次治療の効果は分子標的薬の登場で約55%に向上。免疫チェックポイント阻害薬との組み合わせで65%まで押し上げた。だが、予後はおよそ17カ月に留まるという。
食道がんの現状と課題
「食道がんのステージ4でも免疫チェックポイント阻害薬と全身化学療法の組み合わせで効果が上がりました。しかし、やはり不十分といわざるをえません」
胃がんも食道がんも、早期段階であれば内視鏡的切除術で済み、5年生存率も高い。しかし、気づかずに進行がんになってしまうと治療が厳しいものになる。また、食道がんは約20%に、胃がんや咽頭がんなど、別のがんが重複するという。さらに、手術で食道がんを切除しても、2年以内に再発するリスクもある。再発したときの薬による治療も難しくなる。
腸内細菌叢移植療法への期待
「私たち国立がん研究センター中央病院は治験数を有し、治療の新たな手立てを見つけることは可能です。また、今後の研究で腸内細菌叢移植療法の有効性がわかれば、免疫チェックポイント阻害薬の効果をさらに上げることができるのではないかと考えています」
腸内フローラをリセットして細菌を一変させることで、免疫機能が向上し、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める可能性がある。
また、免疫チェックポイント阻害薬が効きにくい人も、新たな腸内フローラの移植によって効きやすくなることも期待できるという。
今後の研究と期待
いずれにしても、胃がんと食道がんに対する腸内細菌叢移植療法と薬による治療効果の研究は、始まったばかり。今後の展開を注視したい。